BtoBマーケティング
インサイドセールス
トスアップとは、リードの情報と経緯を、次の段階を受け持つ担当へ引き継ぐことです。受け取るのは、インサイドセールスや、商談を担当するフィールドセールスなどです。
BtoBのマーケティングと営業でトスアップと言えば、リード(見込み顧客の担当者)の情報と経緯を、次の段階の担当に引き継ぐことを指します。マーケティングからインサイドセールスへ、インサイドセールスから商談を担当するフィールドセールスへと、段階が進むたびに起きます。
もとは、バレーボールでアタックしやすいトスを上げる動きにたとえた言い方です。銀行でも、ロビーで受けた相談をローンなどの担当者へつなぐことを、トスアップと呼んでいます(広島銀行の採用サイトのスタッフ紹介)。
インサイドセールスの担当者が、展示会で名刺を交換した相手に電話をかけ、課題と検討の時期を聞けたとします。担当者はSlackに「サンプル精機株式会社の生産技術部の課長、来期に検査工程の自動化を検討中。面談をお願いします」と書き、CRMにタスクを作ります。ここまでは、いまの道具で足ります。
困るのはその後です。営業が連絡したのか、商談になったのかが、マーケティングに戻ってこない。半年後に同じ会社の別の担当者から資料請求が届くと、前の経緯をまた一から書き直すことになります。
この記事では、トスアップの意味と起きる場面、基準になるMQL・SQLとの関係、営業に引き継ぐ情報の記入例を紹介します。そのうえで、Slack・Teams・CRMのタスクで引き継いだあとに残る面倒と、それを減らす5つの手順、成果を見る指標とよくある失敗をまとめます。
目次
BtoBでのトスアップとは、リードの情報とそれまでの経緯を、次の段階を受け持つ担当へ引き継ぐことです。受け取るのは、インサイドセールスや、商談を担当するフィールドセールスなどです。名前と連絡先に限らず、本人から聞けた課題も含みます。
この言葉が前提にしているのは、リード獲得から商談までを部署で分けて受け持つ分業です。The Model型と呼ばれる分業では、マーケティングがリードを獲得し、インサイドセールスが電話やメールで課題を聞き、フィールドセールスが面談と提案を受け持ちます。部署が分かれるほど、引き継ぐ回数は増えます。
数える単位も、先に決めておきます。リード(担当者)の単位で数えるなら、同じ会社の2人を別々に引き継げば2件です。企業の単位で引き継ぐ会社もあります。どちらで数えるかを決め、商談になった企業の数とは分けて報告します。

1つめは、マーケティングからインサイドセールスへの引き継ぎです。資料請求やセミナーで獲得したリードのうち、営業と決めた基準を満たしたものを、連絡の対象として引き継ぎます。
2つめは、インサイドセールスからフィールドセールスへの引き継ぎです。電話で課題と検討の時期を聞き、商談に進める価値があると判断した案件を、面談の日程と一緒に引き継ぎます。営業の現場では、この引き継ぎだけをトスアップと呼ぶ会社もあります。
3つめは、社外や別の事業部から、担当の営業への引き継ぎです。営業代行や販売パートナーが見つけた案件のほか、大企業では、部品の営業が取引先から新しい商材の相談を受け、新規事業の事業部へつなぐ場面もあります。同じ会社の中でも事業部が違えば、相手の会社との経緯が共有されていないことがあります。
社外や別の事業部からの引き継ぎは図に描いていませんが、受け取るのがインサイドセールスか営業である点は同じです。どの場面でも、誰が引き継ぎ、誰が受け取るかは、たいてい社内で決まっています。抜けやすいのは、面談の結果がマーケティングに戻る最後の部分です。
引き継ぐタイミングは、営業と合意した基準で決めます。マーケティングからインサイドセールスへはMQL(マーケティング適格リード)、インサイドセールスからフィールドセールスへはSQL(営業適格リード)の基準が目安になります。
| 引き継ぎ | 基準の呼び名 | 誰が判定するか | 基準の例(架空) |
|---|---|---|---|
| マーケティング→インサイドセールス | MQL(Marketing Qualified Lead) | マーケティング(基準は営業と決める) | 対象の業種と規模の会社で、導入事例と料金の資料をダウンロードした |
| インサイドセールス→フィールドセールス | SQL(Sales Qualified Lead) | インサイドセールス | 電話で課題・検討の時期・決める人を聞き、面談の日程が決まった |
| 社外・別の事業部→担当の営業 | 紹介の条件 | 紹介する側と受ける営業 | 相談の内容と、先方の担当者に連絡してよいかを確かめた |
SQLの判断には、BANT(Budget・Authority・Need・Timeframe)がよく使われます。予算・決める人・必要性・導入の時期の4つを聞き、そろったものを商談に進めます。4つが全部そろわなくても、時期と決める人が分かれば引き継ぐ、と決めている会社もあります。どこまでそろえば引き継ぐかを、先に営業と書き出しておきます。
基準を決めないまま引き継ぐと、受け取る側の気持ちも変わります。前に受け取ったリードが商談にならなかった営業は、次に届いた引き継ぎを後回しにしがちです。基準は、件数を絞るためだけのものではありません。受け取った営業が「すぐ連絡する価値がある」と判断できる約束でもあります。
どこからを商談と数えるかも、同じ表で決めます。SQLは「商談に進める価値がある」という判断で、商談は日程が決まって面談したことです。引き継いだあとに見る商談化率は、この定義がそろって初めて比べられます。
営業が最初の連絡の前に読めば、相手に同じ質問をくり返さずに済む情報を引き継ぎます。会社と担当者、きっかけ、聞けた課題、時期と体制、次の約束、同じ会社の経緯の6つです。
| 項目 | 書くこと | 記入例(架空:サンプル精機株式会社) |
|---|---|---|
| 会社と担当者 | 会社名・事業部・部署・役職・連絡先 | サンプル精機株式会社 生産技術部 課長 |
| きっかけ | どの施策で接点ができたか | 展示会で名刺を交換し、後日の電話で話を聞いた |
| 聞けた課題 | 本人の言葉のまま | 「検査工程の人手が足りず、来期に自動化を検討したい」 |
| 時期と体制 | 検討の時期・決める人・ほかに関わる部署 | 来期の予算で検討する。決めるのは部長。品質保証部も関わる |
| 次の約束 | 決まっている日程と、営業に頼むこと | 面談の候補日を3つ伝えた。似た工程の導入事例を持って説明してほしい |
| 同じ会社の経緯 | 過去の接点と、別の担当者とのやり取り | 1年前に設備保全部の方が資料をダウンロード。そのときは商談にならなかった |
課題は、聞いた側が要約せずに、本人の言葉のまま書きます。インサイドセールスが「人手不足」と短く言い換えると、営業は人員の話を持っていき、相手が知りたかった自動化の話にたどり着くまでに時間がかかります。
相手の側にも、引き継ぎがあることを先に伝えておきます。面談の日程を決めるときに「当日は、営業の担当者が導入事例を持って伺います」と話しておけば、担当が替わっても相手は戸惑いません。
調べているテーマや閲覧のデータを添えるときは、検討の手がかりとして書きます。閲覧だけで「導入の予定がある」とは書きません。営業が最初の電話で、相手が調べていた内容を言い当てるような切り出し方をすると、相手は見られていたと感じます。データは、話す順番や持っていく資料を選ぶために使い、会話は本人から聞いた課題から始めます。
Slack・Teamsの通知と、CRMのタスクでの担当と期限の管理で、引き継ぎの「知らせる」部分は足ります。残るのは、同じ会社の経緯を毎回書き直す手間と、営業が対応した結果がマーケティングに戻ってこないことです。
多くの会社は、営業への引き継ぎをSlackやTeamsの投稿と、SFA・CRMのタスクで行っています。営業チームのチャンネルに投稿すれば引き継ぎが伝わり、メンション(@で相手を指定すること)で担当者に通知が届きます。CRMのタスクにすれば、担当者と期限も決まります。知らせる・担当を決める・期限を置く、の3つは、新しい道具を入れなくてもできます。
チャットの投稿は、日がたつと流れていきます。半年前に同じ会社の別の担当者を引き継いでいても、その投稿を探して読み直すのは手間がかかります。インサイドセールスは前の経緯を思い出しながら、また新しく書くことになります。CRMでも、記録が担当者ごとに分かれていると、同じ会社の前の接点に気づけません。大企業が相手なら、同じ会社の別の事業部から問い合わせが届くことも珍しくありません。
結果を書き戻す作業は、営業の目の前の商談を進めるものではありません。忙しい週ほど後回しになります。引き継いだ側は催促しづらく、聞くとしても個別のメッセージになります。結果が戻らなければ、マーケティングはどの施策から来たリードが商談になったかを確かめられません。次の月も、同じ基準で引き継ぎを続けることになります。

いまの道具を替える必要はありません。変えるのは、経緯と営業の結果を残す場所です。
基準を営業とそろえる、引き継ぐ情報を欄にする、経緯を企業ごとに残す、期限と結果の選択肢を決める、毎月見直す、の5つの手順で進めます。手順1と2は今週から始められます。
MQLとSQLの条件、受け取らないときの扱い(育成に戻す・見送る)を1枚に書きます。マーケティング・インサイドセールス・フィールドセールスの責任者が、その1枚に合意します。部門の間で、実施する基準・責任・期限を決める合意をSLA(Service Level Agreement)と呼びます。システムの稼働率を約束するSLAとは別の使い方です。
上の表の6つの項目を欄にして、毎回同じ順で書きます。課題は本人の言葉のまま書き、時期と体制は選択肢から選ぶ形にすると、受け取った営業が読む時間も短くなります。Slackには「欄に書いた」という通知と、その欄へのリンクだけを流します。
同じ会社の担当者との接点、過去の引き継ぎ、営業の対応の結果を、企業ごとに並べて残します。2人目のリードを引き継ぐときは、前の経緯を書き直しません。今回分かったことだけを書き足します。
企業ごとに残すと、もう1つ分かることがあります。ターゲット企業の中で、まだ一度も営業へ引き継がれていない企業です。リードの記録だけを追っていると、接点の無いターゲット企業は抜け漏れとして目に入りません。
受け取りの返事、最初の連絡、結果を戻す日の3つに期限を置きます。結果は、商談・継続・保留・見送りの4つから選ぶ形にすると、営業は短い時間で戻せます。見送りのときは、理由も選択肢(時期が合わない・決める人に届かない・課題が合わない など)にしておきます。連絡がつかないときは「継続」を選び、理由の欄に「連絡がつかない」と残すと、未対応と区別できます。

戻った結果を、展示会・資料請求・セミナーなどの施策ごとに集計し、引き継いだリードからの商談化率を比べます。見送りの理由が1つに偏っていたら、基準か、引き継ぐ前のフォローのどちらかを直します。直した基準は、手順1の1枚に書き足します。
指標は、引き継いだ件数、営業の受け入れの割合、連絡後の商談化率の3つです。3つを掛けると、引き継いだリードからの商談の数になります。商談が増えないときは、3つのどこで減っているかを分けて探します。

件数は、施策ごとに数えます。リード(担当者)の件数と、企業の数は分けます。同じ会社から3人を引き継いでも、商談になった企業は1社かもしれません。
受け入れの割合は、引き継いだリードのうち、営業が連絡したものの割合です。期限内に連絡できたかと、連絡までの日数も一緒に見ます。受け入れが低いときは、基準が営業の考える見込みとずれているか、引き継ぐ情報が足りない可能性があります。
連絡後の商談化率は、営業が連絡したリードのうち、商談になったものの割合です。分母がつながっているので、受け入れの割合と掛け合わせたものが、引き継いだリードからの商談化率(引き継いだリードのうち、商談になったものの割合)です。他社の数字とは比べません。MQL・SQL・商談の定義が会社ごとに違うからです。自社の先月や前の四半期と比べ、施策ごとの差を見ます。
レクシスネクシス・ジャパン株式会社様では、マーケティングの草野様が、営業の田中様のチームへトスアップしています。この事例では、引き継ぐ単位は企業です。目標(KPI)は、マーケティングから営業へ、毎週5件の企業を引き継ぐことでした。
アプローチする企業を見つけるときは、レクシスネクシス・ジャパン様のWebサイトの閲覧の様子のうち、複数人が訪れている、複数ページを見ている、滞在時間が長い、最新のアクセスが直近である、といったデータに注目しています。既存の利用者や、営業中の企業は除き、新しくアプローチする企業に絞ります。受け取った田中様のチームは、自分たちで連絡してアポイントにつなげています。
週5件に厳選したリストから、好調時は半数以上が商談化しています。田中様は、事前に分かっていた課題が、実際の商談でお客様が話す課題と一致したと話しています。部門の間の連携も、企業の名前を伝えるだけの関係から、課題をもとに話し合う関係に変わりました。
数字は、2026年10月17日時点で公開している事例のページから引いています。
この事例から読み取れる要点は、件数を週5件に絞り、企業が調べているテーマを検討の手がかりとして添えて引き継ぐことです。テーマから推し量った課題が合っているかは、連絡や商談の場で本人に確かめます。
件数を目標にすると、基準を満たしているか迷うリードまで引き継ぐようになります。営業が受け取らないリードが増え、受け入れの割合が下がります。件数と一緒に、引き継いだリードからの商談化率も目標に置きます。
書く人によって、書く項目も量も変わります。営業は毎回、何が書いてあるかを読み解くところから始めます。項目を欄にそろえ、同じ会社の経緯は企業ごとに書き足します。
結果が戻らないと、どの施策が商談につながったかを社内で説明できません。経営への報告も、リードの件数のままになります。結果は4つの選択肢から選ぶ形にして、戻す期限を決めます。
資料の閲覧や調べているテーマは、検討の手がかりです。購入の予定を示すものではありません。事例のように、引き継ぐ企業を絞り込む手がかりにはなります。ただ、閲覧が多いことだけを理由に、課題を聞かないままフィールドセールスの面談を入れると、相手が何に困っているかを知らないまま提案することになります。面談の前に、インサイドセールスか営業が連絡し、本人から課題を聞きます。
トスアップは、インサイドセールスの役割と、ターゲット企業の段階の数え方と一緒に決めると、引き継ぎの基準がぶれにくくなります。
今日できることは、先月引き継いだリードを並べ、営業に結果を聞いて、商談・継続・保留・見送りのどれかを書き込むことです。結果が分からなかったリードが多い施策から、直していきます。
ウルテク(URUTEQ)は、ABM(アカウントベースドマーケティング)の考え方で、ターゲット企業からの商談獲得を仕組み化するBtoBマーケティング・営業支援サービスです。マーケティング施策の結果、営業の対応、サイトの外で調べているテーマを企業ごとに分析し、アプローチの抜け漏れと、商談につながった施策を解析します。毎月の定例で商談の結果を確かめ、翌月の施策に反映します。
営業へ引き継いだ企業についても、それまでの施策と営業の対応、商談の結果をターゲット企業ごとにまとめます。ターゲット企業の選定から効果の検証まで、ウルテクチームが並走します。
GA4・MA・SFA・CRMがそれぞれ何を数え、どの場面が記録に残らないかは、「商談獲得までのBtoBツール役割マップ」で整理しています。営業の結果(商談・継続・保留・見送り)を、企業名でマーケティングに戻す欄を作るという見直しのポイントも紹介しています。
ウルテクについて、もっと詳しく知りたい方へ