Go to Market
GTM戦略は、新しい商材をどのターゲット企業に、どんな価値で、どの場面で提案し、商談をどう数えて見直すかを決める、マーケティングと営業の共通の計画です。
GTM戦略は、英語のGo-to-Market Strategyの略で、新しい商材や事業を市場に投入するときの計画を指します。BtoBでは、どのターゲット企業に、どんな価値を、どの場面で提案し、商談の数をどう数えて見直すかを1つにまとめます。既存の商材を新しい業種に広げるときにも立てます。Webサイトの計測に使うGoogle タグマネージャーも同じ略称ですが、別のものです。
新しい商材を任され、上司から「GTM戦略をまとめて」と言われた。市場規模や競合の資料は集まったのに、マーケティングと営業で、アプローチするターゲット企業も、毎月報告する数字もそろわない。策定で手が止まるのは、調べることより、決めることの方が多いからです。
この記事では、答える4つの問いと記入例を示し、準備と4週間で「誰に・何を・どこで・どう数える」に1つずつ答える立て方を紹介します。見る指標(KPI)、マーケティングと営業での使い方、よくある失敗も扱います。意味やABMとの違いは「GTM戦略とABMの違い」、The Modelとの違いは「GTM戦略とThe Modelの違い」の記事でくわしく解説しています。
目次
BtoBのGTM戦略とは、新しい商材や広げる市場の売り先となるターゲット企業と買う事業部、提案する価値、アプローチする場面、数える数字を決め、毎月見直す計画です。
この計画の説明では、市場調査と競合分析が最初に挙がることが多くあります。どちらも欠かせない材料です。ただ、BtoBではそれだけでは足りません。「どの会社の、どの事業部に提案するか」を名前で決めておかないと、マーケティングの施策と営業のアプローチが、別々の会社に向かいます。
もう1つの特徴は、作って終わりにしないことです。商談になった会社と、途中で止まった会社を毎月数え、翌月のターゲット企業や提案の言葉を直します。計画書を1回作るより、この見直しを続けられるかの方が、商談獲得の数を左右します。
BtoBの買い手は、営業に会う前に製品のサイトや比較の記事を読み、候補を絞ってから連絡してきます。調べるときにAIを使う人も増えました。一方で、電話とメールはつながりにくくなり、資料請求のあと連絡がつかないまま止まるリードも出ています。以前の計画のまま施策を増やしても、商談の数は増えにくい状態です。「誰に」と「どこで」を決め直す理由はここにあります。
ABM(アカウントベースドマーケティング)やThe Modelも、一緒に語られることの多い言葉です。3つは、受け持つ範囲が違います。
| 言葉 | 受け持つ範囲 | 使う場面 |
|---|---|---|
| GTM戦略 | 誰に・何を・どこで・どう数えるかを決める全体の計画 | — |
| ABM | ターゲット企業を名前で選び、会社ごとにアプローチを変える進め方 | GTM戦略の「誰に」と「どこで」を、会社の単位で決めるときに使う |
| The Model | マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスに部署を分け、段階ごとに引き継ぐやり方 | 決めた計画を、部署で分担して進めるときに使う |
誰に・何を・どこで・どう数えるの4つの問いに答えます。 4つめの答えを毎月の定例で確かめ、1つめの「誰に」に戻って直します。
工場向けに外観検査AIを売り出す架空の会社で、4つの問いに答えると次のようになります。
| 問い | 決めること | 記入例(外観検査AIを売る架空の会社) |
|---|---|---|
| 誰に | ターゲット企業の条件と、買う事業部。手間のかけ方で分けたA・B・Cの3段 | 工場を持つ産業機械の会社。買う事業部は品質保証部と製造部。A 20社・B 80社・C 200社(見本・架空) |
| 何を | 相手・困っていること・変わることと、まとめた価値の1文(価値提案)。ポジショニングと価格 | 「検査の人手が足りない工場でも、夜間も同じ品質で検査できる」 |
| どこで | 認知・興味・検討・商談獲得の場面(バイヤージャーニーの段階)ごとの施策と担当。営業への引き継ぎの合図 | 認知は業界紙の記事と展示会、興味は業種別の資料とセミナー、検討は事例と比較表、商談獲得は営業からの連絡 |
| どう数える | 数える段階、数える元のデータ、定例の日、見直すこと | 段階ごとの社数と商談の数を、企業の一覧・MA・SFAから数える。定例は毎月第1火曜日 |
答えは、1枚の表にまとめます。この記事では、この表を「GTM戦略キャンバス」と呼びます。1枚にまとめるのは、マーケティングと営業が同じ表を見て話すためです。担当ごとに別の資料があると、ターゲット企業の数や価値の言葉が、少しずつずれていきます。
GTM戦略のフレームワークとしては、3C分析・STP・4Pもよく挙がります。3C分析は「誰に」と「何を」の材料集め、STPは「誰に」の絞り込み、4Pは「何を」と「どこで」の整理に当たります。
この記事の問いは、こうした分析の結果を、マーケティングと営業が実行する計画に置き換えるための枠です。
ステップ1の準備で材料をそろえ、ステップ2〜5で、1週目から4週目まで4つの問いに1つずつ答えます。 30日で1回答えを出し、5週目からは毎月の定例で直していきます。
最初の数日で、4つの問いに答える材料を集めます。SFA・CRMから、過去1年に受注した会社と失注した会社を並べ、業種・規模・事業部・最初の接点を書き出します。新しい商材でまだ受注が無ければ、近い商材の受注や、試験導入に協力してくれた会社で代えます。
あわせて、市場の大きさと競合の提案内容を、公開されている資料で確かめます。営業の担当者には、商談でよく聞く悩みを3つずつ挙げてもらいます。この悩みの言葉が、2週目に書く価値の1文の材料になります。
1週目は「誰に」に答えます。業種と規模で市場を絞ったら、会社の名前と、買う事業部の名前まで決めます。同じ会社でも、新しい商材を任された事業部ごとに、予算と判断が分かれるからです。業種と規模だけで決めると、自社の商材を買わない会社まで一覧に入ります。会社の条件は、ICP(理想顧客プロファイル)として書き出します。
名前を決めたターゲット企業は、1社にかける手間で3段に分けます。
| 段 | アプローチの仕方 | 見本の社数(架空) |
|---|---|---|
| A | 名指しで1社ずつ。営業と一緒に、事業部ごとの提案を用意する | 20社 |
| B | 業種や課題ごとにまとめて、業種別の資料とセミナーで案内する | 80社 |
| C | 企業単位の広告とメルマガで、広く知ってもらう | 200社 |
買う事業部の中では、決める人・使う人・調べる人を分けて書きます。外観検査AIなら、決める人は工場長、使う人は品質保証の課長と検査の担当者、調べる人は生産技術の担当者(見本・架空)といった形です。人ごとの関心や悩みを書いたものがペルソナで、2週目の価値の1文と、3週目の施策の材料になります。
2週目は「何を」に答えます。機能の一覧から書き始めると、「カメラ12台まで対応」「クラウドで結果を集計」(架空)のように、相手が自分の課題に結びつけにくい言葉が並びます。価値の1文は、相手・困っていること・変わることの3つで組み立てます。
外観検査AIの例なら、相手は「検査の人手が足りない工場」、困っていることは「夜間の検査で、見落としが出る」、変わることは「夜間も、昼と同じ品質で検査できる」です。3つをつなげると、「検査の人手が足りない工場でも、夜間も同じ品質で検査できる」という1文になります。1文の下には、試験導入での見落としの件数のような根拠を1行添えます。
競合と比べた位置づけ(ポジショニング)と価格の考え方も、この週に決めます。比べる相手は、競合の製品だけではありません。目視の検査を続ける、検査の人を増やすといった、相手がいま選んでいるやり方も比べる相手に入れます。価格は、試験導入の価格、本導入の価格、相手の事業部が稟議を通しやすい金額の上限の3つを1行ずつ書きます。
3週目は「どこで」に答えます。相手がいる場所と、提供するものは、場面ごとに違います。施策を認知・興味・検討・商談獲得の4つの場面に分け、場面ごとに担当を決めます。
| 場面 | 相手がいる場所 | 提供するもの | 主な担当 |
|---|---|---|---|
| 認知 | 検索・SNS・展示会 | 広告・記事・展示会のブース | マーケティング |
| 興味 | 自社のサイト・セミナー | 業種別の資料・セミナー | マーケティング |
| 検討 | 社内の会議・製品の比較 | 事例・比較表・見積もり | マーケティング・インサイドセールス |
| 商談獲得 | 営業との面談 | 事業部ごとの提案 | 営業 |
商談獲得のあとの稟議や試験導入は、営業の計画で進めます。GTM戦略では、受注の数と単価で結果を確かめます。
販売の形も、この週に決めます。価格帯と導入の手間で選ぶのが目安です。
| 販売の形 | 向いている商材 | 主な担当 |
|---|---|---|
| オンラインで申し込む(セルフサービス) | 価格が低く、導入の説明がほとんど要らない | マーケティング |
| インサイドセールス | 中くらいの価格で、説明と比較の手伝いが要る | インサイドセールス |
| フィールドセールス | 価格が高く、事業部ごとの提案と稟議の支援が要る | 営業 |
| 代理店・パートナー企業 | 相手の業界にすでに販売網がある | パートナー企業と営業 |
場面ごとの施策には、月の予算と担当の人数も割り当てます。人数が足りない場面は、施策の数を減らします。あわせて、営業への引き継ぎの合図(資料請求・セミナーへの参加など)を、マーケティングと営業で先に決めておきます。合図が決まっていないと、合図があった会社への営業の連絡が遅れます。
4週目は「どう数える」に答えます。ターゲット企業がいまどの段階にいるかを、会社の単位で数えます。段階は「未アプローチ・サイト訪問・新規リード・掘り起こし・商談」の5つに分けるのが一例です。掘り起こしは、以前に名刺交換や資料請求で接点があった会社に、新しい動きが出た段階です。
掘り起こしは、新規リードとは別の入口から商談に近づく段階なので、新規リードの次に進むとは限りません。段階は会社がいまいる状態で、施策の区切りである「場面」とは別に数えます。
目標は、商談の数から逆算して段階ごとの社数に置きます。半年で商談24件(見本・架空)を目指すなら月4件です。過去の数字で、新規リードの段階にいる会社の4社に1社が商談になっているなら、新規リードの段階に月16社を目標にします。
数える元のデータ(企業の一覧・MA・SFA)と、毎月の定例の日を決めたら、最初の30日は終わりです。定例の日は、月初の数字がそろう日にします。
BtoBでは、リードの件数に加えて、ターゲット企業の段階ごとの社数と、商談の数を毎月数えます。
リード(見込み顧客の担当者)は人の単位で数えます。同じ会社の3人が資料をダウンロードすれば、リードは3件です。件数が増えても、ターゲット企業300社のうち何社にアプローチできていて、何社が手つかずなのかは分かりません。そこで、会社の単位の数字を並べて見ます。
| 指標 | 数える単位 | 分かること |
|---|---|---|
| 段階ごとの社数 | ターゲット企業 | 未アプローチの会社がどれだけ残っているか。どの段階で止まっている会社が多いか |
| 商談の数 | 商談 | 計画の結果。日程の確定と商談の実施のどちらで数えるかを先に決める |
| リードからの商談化率 | 担当者リード | どの場面の施策から商談が生まれたか。母数と期間をそろえて比べる |
| 企業の商談化率 | ターゲット企業 | 新規リードや掘り起こしの段階の会社のうち、何社が商談に進んだか |
| 受注の数と受注単価 | 取引 | 選んだターゲット企業と価値の1文が、合っているか |
| CAC(顧客獲得費用)とLTV(顧客生涯価値) | 取引・顧客 | 投資を続けてよいか。受注がある程度そろってから見る |
ターゲット企業300社の見本では、未アプローチ198社・サイト訪問22社・新規リード15社・掘り起こし57社・商談8社という数え方になります(見本・架空)。未アプローチが198社残っていれば、「どこで」の認知の施策を見直す手がかりになります。掘り起こしの57社に対しては、営業から連絡するかどうかを定例で決めます。
たとえば定例で、C段の未アプローチの会社に業界紙の記事しか案内していなかったと分かれば、翌月は業種別のセミナーの案内を加え、その翌月の定例で、サイト訪問の段階に進んだ社数を比べます(見本・架空)。
段階ごとの社数を数え始めると、手元のデータだけでは数えられない場所が3つ出てきます。
1つめは、名乗る前の会社です。サイトの外で調べている間や、サイトに来ても名前を入力していない間は、どの会社かが分かりません。2つめは、社内で比べている間です。担当が替わったり、別の人が見に来たりしても、その動きはデータに残りません。
3つめは、営業に引き継いだあとです。商談・継続・保留・見送りの結果がマーケティングに戻らず、「どこで」の施策のどれが効いたのかを確かめられません。
3つめは、SFAに結果を選択肢で書く欄を作れば、自社で埋められます。1つめと2つめは、企業単位のアクセスや、サイトの外で調べているテーマのデータを組み合わせて補います。ただし、閲覧や検索のデータは検討の手がかりであって、購入の予定を示すものではありません。
マーケティングは価値の1文と場面ごとの施策に、セールスはA段の企業への提案と結果の返し方に、両者は毎月の定例に使います。
2週目に書いた価値の1文を、記事・広告・業種別の資料の見出しで、同じ言葉のまま使います。施策ごとに言い方を変えると、相手が同じ商材の話だと気づきにくくなります。営業の提案資料の1ページ目も、同じ1文で始めます。
B段の企業には業種別の資料とセミナーを、C段の企業には企業単位の広告とメルマガを案内します。どちらも、場面ごとの施策が段階ごとの社数をどう動かしたかを、翌月の定例で確かめます。
A段の20社は、マーケティングの施策を待たずに、営業が事業部ごとの提案を用意します。サイト訪問や資料請求があった会社には、決めておいた引き継ぎの合図に沿って、営業から連絡します。
引き継いだ会社が商談になったかどうかを、「商談・継続・保留・見送り」から選んでSFAに書きます。結果がマーケティングに戻れば、どの場面の施策から商談が生まれたかを、施策ごとに比べられます。
毎月の定例では、段階ごとの社数と商談の数を数え、段階が進んだ会社と止まった会社を確かめます。そのうえで、翌月の「誰に・何を・どこで」を直し、施策を実施します。4つめの問いの答えが、次の月の1つめの問いに戻る形です。
よくある失敗は、「誰に」を業種と規模で止める、価値を機能の一覧で書く、リードの件数だけで報告する、作ったまま見直さない、の4つです。
「製造業・従業員1,000人以上」で止めると、ターゲット企業の数が多すぎて、営業はどこから連絡すればよいかを決められません。会社と事業部の名前まで決め、A・B・Cの3段に分けます。
機能の一覧は、営業の資料とマーケティングの記事で、それぞれ別の言葉に言い換えられていきます。相手・困っていること・変わることの3つで1文にし、全員が同じ言葉で話します。
リードの件数が目標を超えても、同じ会社の担当者ばかりなら、アプローチできたターゲット企業は増えていません。経営への報告では、担当者の件数と企業の数を分けて書き、段階ごとの社数と商談の数を並べます。
計画を作った時点では、「誰に」も「何を」も仮の答えです。定例の日が決まっていないと、仮の答えのまま半年が過ぎます。最初の30日の最後に、毎月の定例の日を予定表に入れてしまいます。
ICPでターゲット企業の条件を決め、ABMで会社ごとのアプローチを設計し、データで段階ごとの社数を数えます。
今日できることは、過去1年に受注した会社を5社書き出し、買ったのはどの事業部か、最初の接点は何だったかを1行ずつ書くことです。5社に共通する事業部と接点が、「誰に」と「どこで」の最初の候補になります。
ウルテク(URUTEQ)は、ABM(アカウントベースドマーケティング)の考え方で、ターゲット企業からの商談獲得を仕組み化するBtoBマーケティング・営業支援サービスです。
4つの問いのうち「どう数える」を、ウルテクで保有するデータと貴社のマーケティング・営業結果を組み合わせて受け持ちます。ターゲット企業ごとの段階と商談の数を毎月の定例で確かめ、翌月の施策に反映するところまで、ウルテクチームが並走します。
問いごとの記入例と、GTM戦略キャンバスのExcelのシート、最初の30日の進め方は、「GTM戦略ガイド」にまとめています。
ウルテクについて、もっと詳しく知りたい方へ