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「嫌われないフォーム営業」を実現する“除外リスト”の作り方──量から質へ転換するための実践ガイド

フォーム営業は低コストでリードを獲得できる反面、企業のブランドを傷つけるリスクと隣り合わせです。そのリスクを最小限に抑え、成果を最大化する鍵となるのが「除外リスト」の精度です。本記事では、単なる「取引先除外」にとどまらない、戦略的な送信禁止リストの作成基準と運用ルールを解説します。現場の精神的負担を減らし、受注につながる良質なアプローチを実現するために、マーケティング担当者が知っておくべき具体的ノウハウです。

はじめに

「送信ボタンを押すたびに、少しだけ心が削られるような気がする」

あるインサイドセールスの担当者は、以前そんなふうに漏らしていました。

問い合わせフォームへのアプローチ、いわゆる「フォーム営業」は、多くのBtoB企業にとって魅力的なチャネルです。テレアポのように相手の時間を強制的に奪う感覚が薄く、広告よりも安価にリードを獲得できる可能性があるからです。しかし、その手軽さゆえに、多くの企業が「数打ちゃ当たる」の泥沼に陥っています。

その結果、届くのは待望のアポイント通知ではなく、「営業お断りと書いてあるのが読めないのか」「二度と送ってくるな」という怒りの返信。最悪の場合、SNSで「この会社はスパムを送ってくる」と晒されてしまうこともあります。これでは、商談を作るつもりが、将来の顧客になり得たかもしれない相手を、自らの手で焼き払っているようなものです。

一方で、フォーム営業を起点に安定して良質な商談を生み出し続けている企業も確かに存在します。彼らと、疲弊する現場との違いはどこにあるのでしょうか。

文章の質やオファーの内容ももちろん重要ですが、それ以前の決定的な差は「リストの質」にあります。成果を出している企業ほど、「誰に送るか」以上に「誰に送らないか」に執着しています。それが今回テーマにする「除外リスト(送信禁止リスト)」です。

これを単なる「クレーム回避のための守りの策」と考えているなら、少し認識を改める必要があるかもしれません。精度の高い除外リストは、無駄なアプローチを削ぎ落とし、営業効率を高め、チームの士気を守り、ひいては企業の品格を守るための攻めの基盤になるからです。

この記事では、嫌われないための、そして成果を出すための「除外リスト」の作り方と運用について、現場の視点から掘り下げていきます。

なぜ「除外リスト」がフォーム営業の成否を分けるのか

フォーム営業における除外リストとは、アプローチ対象からあらかじめ外しておくべき企業やドメインのリストのことです。多くの企業がリスト作成ツールやWebスクレイピングで数千、数万件の「アタックリスト」を作りますが、そこから不適切な送信先を引く「マイナスの作業」こそが重要です。

理由は大きく3つあります。

  1. ブランドリスクの回避問い合わせフォームは、本来「顧客が企業に連絡するため」の窓口です。そこに土足で踏み込む営業行為は、どうしてもネガティブな印象を与えがちです。特に、すでに取引のある顧客や、過去に失注したばかりの相手に「はじめまして」と営業メールを送ってしまうミスは致命的です。「顧客管理すらできていない会社」というレッテルを貼られ、既存の信頼関係まで壊しかねません。
  2. ドメインレピュテーションの保護無差別な送信は、受信側のサーバーから「スパム」と判定されるリスクを高めます。多くの企業で迷惑メール報告をされたり、存在しないアドレスに送り続けたりすると、自社のドメイン評価(レピュテーション)が下がります。そうなると、フォーム営業だけでなく、普段の業務メールやメルマガさえも相手に届かなくなる恐れがあります。除外リストによって「届かない宛先」や「嫌がる相手」を排除することは、自社の通信インフラを守ることと同義です。
  3. 現場の精神的摩耗を防ぐ冒頭のエピソードのように、クレーム対応は現場のメンタルを大きく消耗させます。ネガティブな反応ばかりが続くと、インサイドセールス担当者は自分の仕事に誇りを持てなくなり、離職率の上昇にもつながります。「送っても大丈夫だ」という安心感があるからこそ、前向きな気持ちでアプローチを継続できるのです。

実際にあった「リスト管理の甘さ」が招いた失敗

ここで、あるBtoB SaaS企業での事例を紹介します。彼らは事業拡大に伴い、新規リード獲得のためにフォーム営業を強化することにしました。

当時、彼らは「とにかく数を送ろう」と意気込んでいました。リスト購入サービスから抽出した2,000社のリストに対し、一斉送信ツールを使ってアプローチを開始しました。除外設定は「現在の契約中顧客のドメイン」のみ。一見、最低限のケアはしているように見えました。

しかし、送信開始から数時間後、カスタマーサクセス部門のチャットが騒がしくなりました。

「〇〇様からお怒りの電話です。『契約更新の相談をしている最中に、新規導入キャンペーンの営業メールが来た。社内の連携はどうなっているんだ』とのことです」

原因は単純なものでした。除外リストに登録していたのは「契約上のメインドメイン」だけで、そのクライアントが持っていた「別ブランドのサイトのドメイン」が含まれていなかったのです。さらに悪いことに、その別サイトのフォームから送信されたメールは、クライアント企業の社長を含む経営陣全員に転送される設定になっていました。

たった1通のメールが、数ヶ月かけて築いた信頼関係を揺るがし、契約更新の交渉を難航させる結果となりました。また、別の送信先からは「採用応募用のフォームに営業を送ってくる非常識な会社」としてSNSで社名を名指しされ、採用活動にまで悪影響が及びそうになりました。

この企業が得た教訓は、「除外リスト作りは、アタックリスト作りの3倍の時間をかけるべきだった」という痛切な反省です。それ以来、彼らはリストの精査プロセスを抜本的に見直しました。

具体的に「誰」を除外すべきか:5つの基準

では、具体的にどのような基準で除外リストを作ればよいのでしょうか。失敗しないための5つのカテゴリーを整理します。

1. 関係性がすでにある企業(完全一致だけでなく関連も)

既存顧客はもちろんですが、以下の範囲まで広げて除外する必要があります。

  • 過去に商談したことがある企業(失注含む)
  • 現在商談進行中の企業
  • パートナー企業や代理店
  • 既存顧客のグループ会社や関連子会社

特に「グループ会社」は盲点になりがちです。社名が違っても資本関係がある場合、裏側で担当者がつながっていることはよくあります。帝国データバンクなどの企業データベースを活用し、資本系列まで確認するのが理想ですが、最低限、Webサイトの「会社概要」や「グループ企業一覧」には目を通すべきです。

2. コンバージョンする可能性が低い、またはリスクが高い業種

自社のサービスがフィットしない、あるいはトラブルになりやすい業種も事前に除外します。

  • 同業他社(競合):市場調査としてマークされるだけならまだしも、営業手法を模倣されるリスクがあります。
  • 公的機関・官公庁:フォームの利用規約が厳格な場合が多く、入札などの正規ルート以外のアプローチが逆効果になることがあります。
  • 採用サイト・採用専用フォーム:ここは求職者のための窓口です。ここに営業を送るのは最も嫌われる行為の一つであり、ブランド毀損のリスクが極めて高いエリアです。

3. 「営業お断り」を明示している企業

Webサイトのポリシーページや、フォームの記載欄に「営業メールはお断り」「特定電子メール法に基づき…」といった文言がある場合は、絶対に送ってはいけません。これを無視して送ることは、相手の意思を尊重しない姿勢を示すことになり、法的なリスクもはらみます。ツールを使ってサイト内の「お断り」文言をスクレイピングして検知する方法や、目視で確認する工程を入れることが推奨されます。

4. 過去にクレームや配信停止依頼があった企業

一度でも「送らないでほしい」と言われた企業は、永久除外リスト(ブラックリスト)に入れて管理します。担当者が変わっても、この情報は引き継がれなければなりません。メール配信ツールとフォーム営業ツールが分かれている場合、それぞれの配信停止リストを同期させる仕組みが必要です。

5. 親和性が低いと思われる企業規模や課題感

「数打ちゃ当たる」をやめるためには、ターゲティングの精度を上げる必要があります。自社のサービスが「従業員100名以上」を対象にしているなら、10名以下の企業に送るのはお互いにとって時間の無駄です。これを「除外」と捉えるか「ターゲット選定」と捉えるかは表裏一体ですが、明らかにミスマッチな層を除外リストとして定義しておくことで、リスト作成のブレを防げます。

除外リストの作り方と運用フロー

実際に除外リストを作成・運用するためのステップを見ていきましょう。魔法のような自動化ツールはありませんが、効率的な手順は存在します。

Step 1: 社内データの統合(名寄せ)

まず、自社が保有している「接触禁止リスト」を一つの場所に集めます。SFA(営業支援システム)、MA(マーケティングオートメーション)、名刺管理ツール、過去の架電リストなど、データは散らばっているはずです。

ここで最大の壁になるのが「名寄せ」です。「株式会社〇〇」と「(株)〇〇」、「〇〇Inc.」などが別々のデータとして存在していると、除外漏れが起きます。法人番号を活用するか、精度の高い名寄せツールを使って、データをクレンジングします。ドメインをキーにして照合するのが最も確実性が高い方法です。

Step 2: 除外キーワードの設定

リスト作成時に、社名や事業内容に含まれるキーワードでフィルタリングを行います。

例えば、以下のようなキーワードが含まれる企業は除外候補となります。

  • 「法律事務所」「会計事務所」(ターゲット外の場合)
  • 「市役所」「学校法人」
  • 「ホールディングス」(持ち株会社で実体がない場合があるため)
  • 競合他社の社名やサービス名

Step 3: 目視チェックの工程を組み込む

どれだけツールが進化しても、最後は人の目が頼りです。作成したアタックリストから、除外リストとの突き合わせを行った後、送信直前にリストを目視でざっと確認します。「この会社、ニュースで最近不祥事が出ていなかったか?」「この社名、あのお客様の競合ではないか?」といった人間の勘は、意外と馬鹿にできません。1,000件を目視するのは大変ですが、リスクの高い先頭100件や、迷った先だけでも確認するフローを入れることをお勧めします。

Step 4: フィードバックループを作る

フォーム営業を行った結果、「反応が悪かった先」「クレームになった先」を速やかに除外リストに追加する仕組みを作ります。週に一度など定期的にSFAのデータを更新し、常に最新の「送ってはいけないリスト」が参照できるようにします。

「そこまでやる必要があるのか?」という疑問に対して

ここまで読んで、少し面倒だと感じた方もいるかもしれません。現場からよく挙がる疑問や反論について、少し冷静に考えてみましょう。

疑問1:「リスト精査に時間をかけるより、その分多く送った方が成果が出るのでは?」

確かに、短期的なアポイント数だけを見れば、質より量を優先した方が数字が出る月もあるでしょう。しかし、BtoBビジネスは焼畑農業ではありません。一度「スパム業者」として認知された企業が、その信頼を取り戻すには長い年月がかかります。また、精査されていないリストへの送信は、到達率の低下やドメイン汚染を招き、長期的には「誰にも届かない」状態を作り出します。未来の成果を前借りして消費している状態だと言えます。

疑問2:「ツールで自動的に除外できないの?」

多くの営業リスト作成ツールには「既存客除外機能」や「NGワード設定」がありますが、万能ではありません。ツールのデータベース更新にはタイムラグがありますし、微妙なニュアンス(例えば、親会社と子会社の関係や、最近のM&A情報など)まではカバーしきれないことが多いです。ツールはあくまで「大まかな除外」をしてくれるアシスタントであり、最終的な責任者にはなり得ません。「ツールがやったから大丈夫」という思考停止が、前述の失敗事例のような事故を招きます。

疑問3:「除外リストを作りすぎると、送る相手がいなくなるのでは?」

もし除外リストを適用して送る相手がいなくなるのであれば、それは「市場が飽和している」か「ターゲット設定が間違っている」かのどちらかです。無理に不適切な相手に送って数字を作ろうとするよりも、新しいセグメントを開拓するか、別のアプローチ方法(コンテンツマーケティングや展示会など)を検討すべきタイミングかもしれません。除外リストは、自社の市場での立ち位置を客観的に教えてくれる鏡でもあります。

まとめ:品格ある営業活動のために

「嫌われないフォーム営業」とは、言い換えれば「相手の時間を尊重する営業」です。

自分たちのサービスが役に立たない相手、あるいは今はコミュニケーションを望んでいない相手を正確に把握し、そこには送らないという決断をする。この「送らない勇気」こそが、除外リストの本質です。

精度の高い除外リストを作る作業は、地味で根気のいる仕事です。売上に直結するようには見えないかもしれません。しかし、この土台があるからこそ、インサイドセールスは安心してアクセルを踏むことができます。そして、受け取った相手にとっても「自分に関係のある提案が来た」と感じてもらえる可能性が高まります。

リストを整備することは、ただのリスク管理ではありません。それは、自社のサービスを本当に必要としている誰かに、正しいタイミングで情報を届けるための、最も誠実な準備なのです。

まずは手元のリストを見直し、既存顧客のドメインが含まれていないか、競合が含まれていないかを確認するところから始めてみてください。その一手間が、未来のブランドを守ります。

FAQ

Q: 除外リストの更新頻度はどのくらいが適切ですか?

A: 理想はリアルタイムですが、現実的には「毎回のリスト作成時」に最新のSFA/MAデータを参照するのが良いでしょう。また、月次で全社的な取引先データ(新規契約や解約)を反映させるマスタ更新のタイミングを設けることを推奨します。

Q: フォーム営業代行会社を使う場合、除外リストはどうすればいいですか?

A: 代行会社に丸投げせず、必ず自社で作成した「送信禁止ドメインリスト」や「NGキーワード」を提供してください。また、送信前にリストの最終確認を自社で行うフローを契約に盛り込むことが、事故を防ぐために重要です。

Q: 「お問い合わせ」以外のフォーム(採用、IRなど)しか見当たらない場合は送ってもいいですか?

A: 基本的には送るべきではありません。採用やIRのフォームは目的が明確に限定されており、そこに営業メールを送ることは「目的外利用」として強い反感を買うリスクが高いです。代表電話にかけるか、別の接点を探すのが賢明です。

Q: 特定電子メール法への対応として、除外リスト以外に気をつけることはありますか?

A: 送信メール内に「配信停止(オプトアウト)」の導線を明確に設置することが重要です。また、相手が配信停止を希望した場合は、速やかに除外リストへ反映し、再送しない仕組みを徹底してください。

Q: 競合他社をリストから除外する簡単な方法はありますか?

A: 業界地図や比較サイトに掲載されている企業名をリストアップするのが近道です。また、自社のWebサイトに来訪している企業IPアドレスの中から、明らかに競合と思われる企業を特定し、リスト化しておくのも有効な手段です。

著者紹介
井上翔太
ウルテク| URUTEQ 事業責任者 ---- 新卒で証券会社に入社し、BtoCのセールスを経験。その後、PR代理店にてBtoB・BtoC企業向けのデジタルマーケティングコンサルティングや新規営業を担当。ログリー株式会社入社後は、BtoBマーケティング向けSaaSの開発やマーケティング、セールスなどを行う。現在は、これまでの経験を活かし、BtoBマーケAIエージェント「アカウントインテリジェンスツール ウルテク」の事業責任者を務めている。

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