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米国B2B営業モデル「The Model」の終焉と2026年への収益アーキテクチャ:AI SDRとシグナルベースが拓く新時代

2000年代以降、B2B営業の標準だった分業型モデル「The Model」は、米国において構造的な限界を迎え、再構築の過程にあります 。バイヤーの行動変容や顧客獲得コストの高騰により、従来の人的リソースに依存した直線的なプロセスは効率を失いました 。代わって台頭しているのが、AI SDRによる案件創出の自動化や、顧客のデジタル行動を捉える「シグナルベース・セリング」です 。

組織は部門間の壁を越えた「RevOps」へと進化し、評価軸も新規獲得から既存顧客のLTV最大化を重視する「ボウタイモデル」へと移行しています 。2026年に向け、AIと共生し「効率的な成長」を実現する新たな収益アーキテクチャへの転換が不可欠となっています。


はじめに

シリコンバレーを発端とし、日本のSaaS業界でも聖典のように扱われてきた分業型営業モデル、通称「The Model」がいま、その発祥の地である米国で大きな転換期を迎えています。かつては成長の最適解とされたこのモデルが、なぜ今、組織的な限界を露呈しているのか。そして、AIとデータを武器に台頭する次世代の収益アーキテクチャとはどのようなものか。

本稿では、2025年から2026年にかけて進行している米国B2B市場の地殻変動について、最新の調査データに基づき詳細に分析していきます。単なるトレンドの紹介に留まらず、なぜこれまでのやり方が通用しなくなったのかという思考の筋道、そして現場が直面するリアリティについても深く掘り下げていきましょう。

「The Model」の興亡と前提条件の崩壊

2010年代、アーロン・ロス氏が「Predictable Revenue」で体系化した営業手法は、まさに革命でした。セールスフォース社の急成長を支えたこのモデルの核心は、営業プロセスをSDR(インサイドセールス)、AE(フィールドセールス)、CSM(カスタマーサクセス)という役割に専門化させ、人的リソースの投入量に応じて売上を数学的に予測可能にした点にあります。出典:Aaron Ross_Predictable Revenue(Predictable Revenue: Turn Your Business Into A Sales Machine with the $100 Million Best Practices of Salesforce.com)、https://predictablerevenue.com/

しかし、このモデルが魔法のように機能したのは、当時の市場環境が極めて特殊だったからです。低金利による安価な資本、未飽和のデジタルチャネル、そして何より、営業担当者からの情報提供を必要としていたバイヤーの存在がありました。

2025年現在、これらの前提条件は跡形もなく消え去っています。

バイヤーの不可逆的な行動変容

現代のB2Bバイヤーは、営業担当者と接触する前に、自ら情報を収集し、購買プロセスの大部分を完了させています。ガートナーの予測によれば、2025年までにB2Bセールスの相互作用の80パーセントはデジタルチャネルで発生するとされています。出典:ガートナー_レポート(Gartner Predicts 80% of B2B Sales Interactions Will Occur in Digital Channels by 2025)、https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2020-09-15-gartner-predicts-80–of-b2b-sales-interactions-will-occur-in-digital-channels-by-2025

特に意思決定層に食い込みつつあるミレニアル世代やZ世代は、営業担当者との対話よりも、Webサイトの製品デモやG2、TrustRadiusといったレビューサイト、あるいは信頼できるコミュニティでの評判を重視します。彼らにとって、従来型の「課題をヒアリングさせてください」という営業のアプローチは、自分たちの調査を妨げるノイズでしかありません。

デジタルチャネルの飽和と効率の悪化

さらに深刻なのが、アウトバウンド営業の効率低下です。誰もがセールスエンゲージメントツールを使って大量のメールを送りつけた結果、顧客の受信箱はスパムで溢れかえりました。

かつては効果的だったコールドメールの返信率は5パーセント以下に低迷し、電話の接続率も下がり続けています。出典:Salesloft_レポート(The State of Sales 2024-2025)、https://salesloft.com/

あるSaaS企業のマーケティングマネージャーは、次のような苦渋に満ちた経験を語っています。

かつては月に1000件のメールを送れば、一定数の商談が確実に生まれていました。しかし、今ではその10倍、100倍の活動量をこなしても、得られるのは冷ややかな拒絶か無視ばかり。SDRチームは疲弊し、獲得コストであるCACは高騰する一方で、売上への貢献が見合わなくなってしまったのです。正直なところ、どこでボタンを掛け違えたのか、思わずため息が出るような日々が続きました。

このような現場の悲鳴は、決して特殊な例ではありません。無差別なアプローチ、いわゆるスプレー・アンド・プレイの時代は完全に終焉を迎えたのです。

組織構造の再編と新たな役割

「The Model」の機能不全を受け、米国企業は組織のあり方を根本から見直し始めています。ここで注目すべきは、SDR組織の縮小とフルサイクルAEへの回帰という動きです。

SDR組織の縮小と役割の二極化

SaaStrが引用したEmergence Capitalのデータによれば、2025年にはB2B企業の36パーセントがSDRの人員削減に踏み切っています。これは全営業職種の中で最も高い削減率です。出典:SaaStr_記事(36% of B2B Companies Are Cutting SDRs)、https://www.saastr.com/36-of-b2b-companies-are-cutting-sdrs/

SDRが不要になったわけではありませんが、その役割は二極化しています。一方は、大量のアウトバウンドをAIに任せ、その設定やチューニングを行うAIオペレーターとしての役割。もう一方は、大手企業向けのABMにおいて高度なリサーチと戦略的関係構築を担う、より高次元な市場開発の役割です。

フルサイクルAEへの回帰

特に中小企業(SMB)やミッドマーケット向けでは、一人の営業担当者が新規開拓からクロージングまでを一貫して担当するフルサイクルAEモデルが主流になりつつあります。調査によれば、約46パーセントから56パーセントの企業がこのモデルを採用、または検討しているという結果が出ています。出典:SalesLoft_記事(The End of the SDR?)、https://salesloft.com/resources/blog/the-end-of-the-sdr/

フルサイクルモデルの最大の利点は、顧客体験の向上にあります。分業モデルでは、SDRからAEへの引き継ぎの際、どうしても情報の欠落が発生します。顧客は、SDRに話したことを再びAEに説明しなければならないストレスを感じ、体験が分断されてしまうのです。最初から最後まで同じ担当者が伴走することで、文脈が共有され、深い信頼関係を築きやすくなります。

また、経済的な合理性も無視できません。SDRとAEの双方に人件費をかけるモデルは、CACを押し上げます。AIツールの進化により、かつては膨大な時間がかかっていたプロスペクティング(見込み客発掘)の工数が大幅に削減されたことで、AEが一人でプロセスを完結させることが現実的になったのです。

テクノロジーによる破壊と創造:AI SDRの衝撃

今、この変革のスピードを加速させているのがAI SDRや自律型エージェントの存在です。これらは、単なるメールの下書き作成ツールではありません。

AI SDRの実力と驚異的なROI

2025年において、AI SDRはもはや実験段階を終え、実用的な労働力として組織に組み込まれています。Salestoolsのレポートによれば、AI SDRを導入したチームは、導入していないチームと比較して83パーセントも高い収益成長を記録しています。出典:Salestools.io_レポート(The Rise of AI SDRs: 2025 Market Analysis)、https://salestools.io/blog/ai-sdr-market-report

AI SDRの特筆すべき点は、その自律性にあります。

  • リサーチ:WebサイトやLinkedIn、最新ニュースから見込み客の課題を自ら仮説立てする。
  • コンテンツ生成:収集した情報を基に、相手の心に刺さる高度にパーソナライズされたメッセージを作成する。
  • 対話:返信内容を理解し、質問への回答や会議日程の調整を24時間365日休みなく行う。

驚くべきことに、人間のSDRにかかるコストを最大83パーセント削減できるという試算もあります。これにより、人間はプロスペクティングという高ストレスな定型業務から解放され、より戦略的な提案や複雑な交渉といった、人間にしかできない高付加価値業務に集中できるようになります。

コパイロットからオートパイロットへ

2024年までは、AIは営業をサポートする「コパイロット(副操縦士)」としての位置付けが一般的でした。商談の要約やメールの下書きを助けてくれる存在です。しかし、2025年以降のメガトレンドは、特定のタスクをAIが完全に代行する「オートパイロット(自律操縦)」への移行です。出典:IDC_レポート(Worldwide AI Powered Sales Tools Forecast, 2024–2028)、https://www.idc.com/

これは初級レベルの営業職にとっては脅威ですが、組織全体としては、GTM(市場進出)プロセスの劇的な効率化を意味します。

方法論の進化:シグナルベース・セリング

テクノロジーの進化は、営業の手法そのものも変えました。従来の「属性(業種や規模)」に基づいた静的なリストへのアプローチに代わり、2025年の主流となっているのが、顧客の「行動や変化」をリアルタイムで捉えるシグナルベース・セリングです。

誰にではなく、いつ、なぜアプローチするか

シグナルベース・セリングとは、バイヤーが発するデジタル上の微細なシグナルを検知し、それが購買意欲を示しているかを判断して介入する手法です。出典:6sense_レポート(The 2025 State of Predictable Revenue)、https://6sense.com/

具体的には、以下のようなシグナルが重要視されます。

  1. コンテキスト変化:キーマンの転職、資金調達、新オフィスの開設など。
  2. インテント(意図):自社の価格ページを複数回閲覧している、競合製品を比較検討しているなど。
  3. テクノロジー:競合製品の契約更新時期が近づいている、自社製品と相性の良いツールを導入したなど。
  4. リレーション:かつて自社のファンだった顧客が、別のターゲット企業へ転職した(最強のシグナルの一つです)。

現場で機能させるワークフロー

この手法を成功させるには、営業担当者が個別にシグナルを探し回るのではなく、RevOps(収益オペレーション)がシステム的にシグナルを収集・スコアリングし、担当者にタスクとしてプッシュする仕組みが不可欠です。

例えば、6senseやZoomInfoといったツールからデータを集約し、購入意欲スコアを算出。スコアが一定値を超えたアカウントを即座に担当AEに割り当て、推奨されるアクションを提示します。このアプローチにより、営業担当者は「今、まさに話を聞く準備ができている顧客」だけに時間を費やすことが可能になり、成約率は劇的に向上します。

「ボウタイ」モデルとリテンション中心の戦略

企業の評価軸が「新規獲得」から「効率的な成長」へと移行する中で、営業プロセスの捉え方も変化しました。従来のセールスファネルは、既存顧客の拡大を重視する「ボウタイ(蝶ネクタイ)」モデルへと進化を遂げています。

契約はゴールではなく、スタートに過ぎない

Winning by Design社が提唱するボウタイモデルは、左側の「獲得」と、右側の「拡大」を、中央の「契約」という結び目で繋いでいます。出典:Winning by Design_レポート(The Bowtie Model for Recurring Revenue)、https://winningbydesign.com/

このモデルにおいて最も重要なのは、契約後にあるインパクトのフェーズです。顧客が製品の機能を使うだけでなく、それによって具体的なビジネス成果(コスト削減や売上増など)を実感した瞬間にこそ、真の価値が生まれます。このインパクトの実感なしには、更新もアップセルも望めません。

追うべきメトリクスの変化:NRRの重要性

ボウタイモデルの採用により、KPIの主役は新規受注額から、NRR(売上継続率)へと移りました。既存顧客からの収益がどれだけ増減したかを示すNRRが100パーセントを超えていれば、新規獲得がゼロであっても企業は成長し続けることができます。現在の米国市場において、SaaS企業の価値を決めるのは、新規の派手な数字よりも、この着実なNRRの積み上げであると言っても過言ではありません。

また、パイプラインの金額だけでなく、どれだけの速さで収益化できるかを示すセールスベロシティの改善も、最優先課題となっています。出典:Pavilion_レポート(2025 Sales Benchmarks Report)、https://www.joinpavilion.com/

批判的観点:次世代モデルの懸念と回答

ここまで、新しいモデルの素晴らしさを説いてきましたが、当然ながら懸念や疑問も生まれるでしょう。読者の皆さんが抱きそうな3つの問いに対して、現場のリアルな視点からお答えします。

懸念1:AI SDRに任せることで、ブランドが傷ついたり、顧客に失礼な印象を与えたりしないか?

確かに、かつての自動送信ツールのような機械的なメッセージを送れば、ブランドは瞬時に傷つきます。しかし、現代のAI SDRは、相手の直近の投稿内容や企業のプレスリリース、さらにはIR情報までを読み込んだ上で、人間にしか書けないような文脈を持ったメッセージを生成します。

大切なのはAIに丸投げすることではなく、人間がそのアルゴリズムやパーソナライズの基準を監修し、チューニングし続けることです。AIは労働力であり、その品質管理は人間の責務であるという認識が欠かせません。

懸念2:フルサイクルAEは業務範囲が広すぎて、営業現場がパンクしてしまうのではないか?

これは正当な懸念です。AEが商談に追われると、新規開拓がおろそかになり、数ヶ月後のパイプラインが枯渇するというジェットコースター現象はよく起こります。

しかし、この解決策こそが前述のAIによる自動化とRevOpsによるシステム化です。フルサイクルAEが自らリストを作成し、一通ずつメールを書く必要はありません。AIがシグナルを検知してアプローチし、返信があった商談可能なリードだけをAEののカレンダーに差し込む。こうしたテクノロジーの活用が前提となって初めて、フルサイクルモデルは成立します。

懸念3:結局、これからの営業組織において、人間が果たすべき唯一無二の役割とは何か?

AIがあらゆる情報を整理し、初期の接触を代行できるようになった世界で、人間に残されるのは「信頼の構築」と「複雑な合意形成」です。

B2Bの購買には、常に政治的な力学や感情的な葛藤が伴います。競合他社との機能比較であればAIでも説明できますが、「なぜ今、リスクを取ってまでこの会社と組むべきなのか」という決断を後押しし、組織内の複数のステークホルダーを納得させるのは、同じ生身の人間による情熱や誠実さ、そして深い洞察に他なりません。人間は、作業から解放され、より人間らしい仕事へと回帰していくのです。

リーダーシップと報酬制度の進化

最後に、これらの変化を支えるリーダーシップと報酬制度についても触れておきましょう。

Bridge Groupの2025年ベンチマークによれば、営業リーダーにはこれまで以上のAIリテラシーが求められています。どのツールを導入し、どのようにワークフローに組み込むかを判断する能力が、チームの生産性を左右するからです。出典:The Bridge Group_レポート(2025 SaaS Sales SDR Metrics & Compensation)、https://www.bridgegroupinc.com/

また、報酬体系も「契約さえ取ればいい」という考えから脱却しつつあります。クロージャーのコミッションの一部を、顧客の早期解約の有無や、オンボーディングの完了状況に連動させるケースが増えています。これは、ボウタイモデルの右側、つまりリテンションとインパクトを重視するための仕組みです。

2026年以降の展望

米国におけるThe Modelの変容は、決して一過性のブームではありません。それは、データとAIという新たな血肉を得て、より高度で効率的な「収益アーキテクチャ」へと進化を遂げた姿です。

2026年に向けて、私たちが目指すべき方向性は明確です。

  1. AIとの共生:AIを単なるツールではなく、デジタルワーカーという労働力として組織に組み込むこと。
  2. シグナルへの適応:静的な計画に固執せず、市場や顧客の動的な変化に即応できる俊敏なプロセスを構築すること。
  3. 統合された収益チーム:部門の壁を超え、RevOpsを中心とした「One Revenue Team」として、顧客の生涯価値(LTV)の最大化を目指すこと。

The Modelは死んだのではありません。より強固でしなやかな形へと、今まさに生まれ変わっているのです。この変化を恐れるのではなく、自社のビジネスモデルに最適な形へと再構築するチャンスとして捉えていきましょう。


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最後に

約20年の間、B2B営業の王道だった分業制の「ザ・モデル」が、米国で大きな曲がり角を迎えています。顧客が営業と会う前に自分で調査を終える現代、これまでの大量メールや電話といった人海戦術は効率を落としました。いま注目されているのは、AIを労働力として活用し、顧客のWeb行動から「いま欲しい」タイミングを逃さずアプローチするシグナルベースの営業手法です。組織も部門の壁を壊した収益管理チームへと変わり、新規獲得と同じかそれ以上に、既存客の満足度を高める戦略が鍵を握ります。2026年に向け、単なる作業をAIに任せ、人間は信頼構築に注力する新しい稼ぎの仕組みへとアップデートが求められています。

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著者紹介
井上翔太
ウルテク| URUTEQ 事業責任者 ---- 新卒で証券会社に入社し、BtoCのセールスを経験。その後、PR代理店にてBtoB・BtoC企業向けのデジタルマーケティングコンサルティングや新規営業を担当。ログリー株式会社入社後は、BtoBマーケティング向けSaaSの開発やマーケティング、セールスなどを行う。現在は、これまでの経験を活かし、BtoBマーケAIエージェント「アカウントインテリジェンスツール ウルテク」の事業責任者を務めている。

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