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BtoBカスタマージャーニーマップの実践的な作り方と運用プロセス

BtoBの購買プロセスは関与者が多く検討期間も長いため、顧客の心理と行動を可視化するカスタマージャーニーマップの存在がマーケティング成果を左右します。しかし現場では、立派な図を作っただけで満足してしまい、実際の施策に紐づかないケースが後を絶ちません。本記事では、BtoB特有の構造を踏まえたマップの作り方を具体的なステップで解説します。よくある失敗例や現場のリアルな疑問への回答を交え、実務で機能するツールの構築手法をお伝えします。

はじめに

顧客が自社の商品やサービスを認知し、興味を持ち、比較検討を経て導入に至るまでの道筋。これを可視化したカスタマージャーニーマップは、マーケティング戦略を立てる上で欠かせない前提として語られるようになりました。

特にBtoBビジネスにおいては、購買プロセスが複雑になりがちです。ひとりの担当者が思いつきで決裁できるケースは稀であり、現場の担当者、部門長、情報システム部、そして経営層など、さまざまな立場の人間が関与しながら時間をかけて導入を進めていきます。そのため、顧客が今どの段階にいて、誰がどんな情報を求めているのかを解像度高く把握しなければ、適切なタイミングで適切なコンテンツを届けることはできません。

しかしながら、多くの企業でカスタマージャーニーマップ作りに取り組んでいるものの、それが本当に日々の業務で機能しているかというと、首を傾げざるを得ない状況が散見されます。数日間にわたるワークショップを開き、壁一面に付箋を貼って立派なマップを完成させたものの、その翌月には誰の目にも触れなくなる。そんな光景を経験したことがある方も少なくないはずです。

本記事では、ただ綺麗な図を描くための理論ではなく、明日からのコンテンツ制作や営業アプローチに直結する、実務起点のBtoBカスタマージャーニーマップの作り方を紐解いていきます。

BtoBにおけるカスタマージャーニーマップの特異性

マップの具体的な作り方に入る前に、そもそもBtoBの購買プロセスがBtoCとどう違うのか、その前提を揃えておく必要があります。ここの認識がブレたままだと、最終的にできあがるアウトプットが個人の感情の揺れ動きばかりを追った、BtoBの実態にそぐわないものになってしまうからです。

まず最大のポイントは、関与者の多さです。BtoCであれば、基本的には財布を握っている個人が「欲しい」と思えば購買が成立します。しかしBtoBの場合は、課題を感じて情報収集を始める「起案者」、要件を満たしているか技術的なチェックを行う「評価者」、そして最終的な予算のハンコを押す「決裁者」が存在します。彼らはそれぞれ異なるミッションと評価指標を持って動いているため、求めている情報がまったく異なります。

次に、検討期間の長さが挙げられます。商材の単価にもよりますが、数ヶ月から長ければ数年単位で導入の検討が進むことも珍しくありません。この長い期間のなかで、顧客の課題感は「なんとなく業務が非効率だ」という曖昧なものから、「特定のシステムを導入して年間コストをいくら削減しなければならない」という具体的なものへと変化していきます。

そして、最終的な判断が「合理的・論理的」に行われるという点も重要です。BtoCのような衝動買いは起きません。稟議書という形で社内の複数人を説得しなければならないため、導入による投資対効果やリスク回避の論理武装が必ず求められます。

これらの特異性を踏まえると、BtoBのカスタマージャーニーマップでは、担当者個人のワクワクや不安といった感情の起伏を追う以上に、「社内で誰をどう説得しなければならないのか」「そのためにはどんな材料(情報)が必要なのか」という、組織内の合意形成プロセスをマッピングすることが本質的な目的となります。

現場でよくある失敗:作ること自体が目的化する罠

ここで少し、市場全体でよく見られる失敗のパターンを共有させてください。ある中堅SaaS企業でのケースです。

その企業では、リード獲得が伸び悩んでいる状況を打破するため、マーケティング部門の主導で大規模なプロジェクトを立ち上げました。営業部門やカスタマーサポートのメンバーも集め、丸二日かけて理想的なカスタマージャーニーマップを作成したのです。大きな模造紙には顧客の心理状態が事細かに言語化され、どの段階でどんなアプローチをするべきかがびっしりと書き込まれました。プロジェクトメンバーは「これで顧客の動きが完全に理解できた」と大きな達成感を得たと言います。

ところが、その3ヶ月後。現場の動きは何も変わっていませんでした。マーケティング部門は相変わらず製品の機能紹介ばかりのブログ記事を量産し、営業部門は展示会で集めた名刺のリストの上から順に電話をかけるだけの架電を続けていました。

なぜこのようなことが起きたのでしょうか。原因は明確で、マップを作ること自体がゴールになってしまい、具体的なアクションへの紐付けが決定的に不足していたからです。

マップ上に「顧客が他社製品と比較して迷っているフェーズ」があることは可視化されました。しかし、そこで「具体的にどの競合と比較されやすいのか」「その際に自社の優位性をどう伝えるのか」「それを伝えるためのホワイトペーパーは誰がいつまでに作るのか」といった施策レベルの落とし込みが行われていなかったのです。結果として、解像度の高いポスターがオフィスの壁に貼られただけで、実務には何も変化をもたらしませんでした。

この教訓から得られる学びは、カスタマージャーニーマップは「顧客理解のツール」であると同時に、それ以上に「社内のアクションを規定する設計図」でなければならないということです。どんなに顧客の心理を深く洞察しても、自社が提供できるコンテンツや営業のアクションに翻訳できなければ、ビジネス上の価値は生み出しません。

実践的BtoBカスタマージャーニーマップの作り方 5つのステップ

ここからは、絵に描いた餅にならないための実践的なステップを解説します。わかりやすくするために、架空の「クラウド経費精算システム」を販売するケースを想定して進めていきます。

ステップ1:ペルソナと主要関与者の特定

まずは、誰の行動をマッピングするのかを定義します。先述の通り、BtoBでは複数人が関与しますが、最初から全員のジャーニーを同時に描こうとすると複雑すぎて破綻します。そのため、メインで情報収集を行い、社内稟議の推進役となる「キーマン(起案者)」を主役に据えるのが定石です。

クラウド経費精算システムであれば、主役は「中堅企業の経理課長」になるでしょう。月末の領収書入力とチェック作業に忙殺されており、部門の残業時間を減らしたいと強烈に感じている人物です。

同時に、その主役を取り巻く関与者もリストアップしておきます。利用部門の一般社員、セキュリティ基準を気にする情報システム部長、コスト削減効果を求めるCFOなどです。主役の経理課長は、最終的に彼らを説得して回らなければならないという前提をここで確認します。

ステップ2:購買プロセスのフェーズ定義

次に、横軸となる時間的なステップを区切ります。BtoBの場合、以下の4〜5フェーズに分けるのが一般的で扱いやすいでしょう。

  1. 課題認知:現状のやり方に限界を感じ、何らかの解決策が必要だと気づく段階。
  2. 情報収集:具体的にどのような解決手法があるのか、検索やセミナーなどで幅広く情報を集める段階。
  3. 比較検討:いくつかの候補を絞り込み、自社の要件に合うか、価格は妥当かを細かく比較する段階。
  4. 稟議・決定:導入するサービスを一つに決め、社内の決裁を通す段階。

ステップ3:各フェーズの顧客心理・行動・タッチポイントの整理

定義したフェーズごとに、経理課長が何を考え、どう動き、どこで情報に触れるのかを書き出していきます。

例えば「課題認知」フェーズであれば、心理は「毎月エクセルと紙の領収書の突合で月末は帰れない。法改正への対応も手作業では限界だ」という状態です。行動としては、他社の経理担当者との情報交換や、業務効率化に関するWebメディアの閲覧が考えられます。

「比較検討」フェーズまで進むと、心理は「A社とB社のシステム、機能は似ているが運用サポートに違いはあるのか。情報システム部が要求するセキュリティ基準は満たしているか」といった具体的なものになります。行動は、ベンダーへの問い合わせ、デモ画面の操作、導入事例の読み込みなどになります。

このように、主役である経理課長がフェーズごとに抱える疑問や障壁を徹底的に洗い出していきます。

ステップ4:顧客の「次への移行」を阻むボトルネックの特定

ここが、実践的なマップにするための非常に重要な工程です。各フェーズにおいて、顧客が次のフェーズへ進むのを妨げている要因(ボトルネック)は何かを考えます。

情報収集から比較検討に進めないのは、「クラウドシステムは結局どれも同じに見えて、選び方がわからない」からかもしれません。

比較検討から稟議に進めないのは、「CFOに提出するための費用対効果の算出方法がわからない」からかもしれません。

このボトルネックを特定することで、我々が提供すべき情報が明確にあぶり出されます。

ステップ5:具体的な施策とコンテンツへの落とし込み

最後に、ステップ4で特定したボトルネックを解消し、顧客を次のフェーズへと背中押しするためのアクションを定義します。ここを埋めなければ、ジャーニーマップは完成しません。

選び方がわからない顧客には、「経費精算システムの比較ポイントがわかるホワイトペーパー」を用意するべきです。

費用対効果の算出でつまずいている顧客には、「現状の処理件数と人件費を入力すれば、導入後の削減コストがわかるROIシミュレーションツール」を提供する、あるいは営業担当が個別相談会で一緒に稟議書を作るサポートをする、といった施策が考えられます。

フェーズごとに、誰が、どのチャネルで、どんなコンテンツ(価値)を提供するのか。これをマップの最下段に明記することで、はじめてジャーニーマップはマーケティングや営業の実行計画書として機能し始めます。

ジャーニーマップに対する現場の疑問・懸念へのリアルな回答

ここまで理想的なステップを解説してきましたが、いざ自社で取り組もうとすると、現場からはさまざまな反論や懸念の声が上がるものです。ここでは、そうした声に対するリアルな回答と落としどころを提示します。

疑問1:顧客の行動は多様化しており、一本道のきれいなマップなんて作れないのではないか?

これに対する回答は、「おっしゃる通り、現実の行動は直線的ではありません。しかし、それでも基本となる型は必要です」となります。

確かに今の時代、SNSで偶然サービスを知って即座に問い合わせてくる人もいれば、半年間ブログを読み続けてようやく資料請求をしてくる人もいます。顧客の動きはあみだくじのように複雑です。

しかし、だからといってマップ作りを放棄してしまえば、施策は常に場当たり的なものになってしまいます。すべての例外を網羅するのではなく、「自社にとって最も確度が高く、理想的な合意形成のルート(勝ちパターン)」をまずは一本、仮説として定義することが重要です。基本の型があるからこそ、そこから外れた動きに対してどう対応するかの応用が効くようになります。

疑問2:営業部門が忙しそうで、作成のためのインタビューやワークショップに協力してくれない場合はどうすればいいか?

マーケティング部門だけでマップを作ると現場の肌感覚とずれてしまうため、営業の協力は不可欠です。しかし、「ゼロから一緒に考えてください」というスタンスで持ちかけると、忙しい営業現場からは敬遠されがちです。

現実的なアプローチとしては、マーケティング側で事前調査を行い、まずは「仮説のたたき台」となる荒いマップを完成させてしまうことです。その上で営業担当者に「私たちが考えた顧客の動きですが、ここ、現場の実態と全然違っていませんか?」とツッコミをもらう形にします。人間はゼロからアイデアを出すのは面倒に感じますが、用意されたものに対する間違いの指摘や修正であれば、比較的乗ってくれやすいという心理を利用するのです。

疑問3:苦労して作っても、市場環境や製品のアップデートですぐに陳腐化してしまうのではないか?

その懸念は完全に正しいです。ジャーニーマップは一度作って完成するものではなく、常に陳腐化の危機に晒されています。だからこそ、デザイナーに依頼して綺麗なPDFのポスターに仕上げてはいけません。

運用に乗せるためには、スプレッドシートやオンラインのホワイトボードツールなど、誰でもいつでも書き換え可能なフォーマットで作成することが鉄則です。そして、四半期に一度など定期的な見直しの場を設け、「最近の顧客はここではなく、あっちの情報を重視するようになっている」といった現場の最新の気づきをパッチワークのように追記していく運用を組み込む必要があります。

マップを「使えるツール」として定着させる運用のアプローチ

ジャーニーマップを日々の業務に定着させるためには、それを社内の「共通言語」にまで昇華させる仕組みが必要です。

例えば、コンテンツ制作の会議では、「今回はどのフェーズの、どのボトルネックを解消するための記事を書くのか」をマップを指差しながら確認するルールにします。

営業との定例会議でも、「今週失注したあの案件は、ジャーニーのどのフェーズでのコミュニケーションが不足していたのか」といった振り返りを行います。

MA(マーケティングオートメーション)ツールを用いたステップメールのシナリオを組む際も、マップ上の心理変容のステップに沿ってメールの順番と内容を設計します。

このように、あらゆる施策の起点であり、振り返りの拠り所としてマップを使い倒すこと。仮説と検証を繰り返すなかで、最初は荒かったマップの精度が徐々に高まり、自社独自の強力な資産へと育っていきます。完璧なものを作ろうと立ち止まるのではなく、不完全でもいいから使いながら育てていくというマインドセットこそが、BtoBマーケティングを成功に導く鍵となります。

おわりに

BtoBにおけるカスタマージャーニーマップの作成は、決して自己満足のための作業ではありません。複雑な組織内の合意形成プロセスを紐解き、顧客が抱える見えない障壁を取り除き、スムーズに導入へと導くための実践的な見取り図です。

関与者の特定から始まり、ボトルネックの洗い出し、そして具体的な施策への落とし込みというステップを丁寧に踏むことで、必ず実務で機能するツールを生み出すことができます。もし現在、自社のマーケティング施策が点と点でバラバラになっていると感じているのであれば、改めて顧客の道筋を一本の線でつなぎ直すタイミングかもしれません。

まずは自社の主要な顧客層を一人思い浮かべ、現状の仮説を書き出してみることから始めてみてはいかがでしょうか。そこから得られる気づきが、次なるブレイクスルーの糸口になるはずです。

もし、自社の状況に合わせたより具体的なジャーニーの設計方法や、そこから導き出されるコンテンツの企画についてお悩みの場合は、ぜひお気軽にご相談ください。専門のコンサルタントが、貴社独自の勝ちパターン構築をサポートいたします。

FAQ

Q. カスタマージャーニーマップの作成には、どのくらいの期間をかけるべきですか?

A. 完璧を求めすぎず、初版は1〜2週間程度で素早く仮説として組み上げることをおすすめします。関係者を集めた数時間のワークショップで骨格を作り、その後マーケティング担当者が肉付けを行う形がスムーズです。重要なのは、作った後の運用と検証のサイクルを早く回すことです。

Q. ペルソナ設定が曖昧なままでもジャーニーマップは作れますか?

A. 非常に困難です。主役がブレると、「誰の」心理や行動を描いているのかが曖昧になり、結果として誰にも刺さらない施策の羅列になってしまいます。まずは自社にとって最も理想的な顧客像(ペルソナ)を一つ明確に定義してからマップ作成に進んでください。

Q. 既存顧客向けのジャーニーマップ(オンボーディングや契約更新など)も必要ですか?

A. BtoB、特にSaaSビジネスなどでは非常に重要です。新規獲得だけでなく、導入後の活用定着(オンボーディング)やアップセル・クロスセルのフェーズにおいても、顧客がどこでつまずきやすいのかを可視化することで、カスタマーサクセスの質を大きく向上させることができます。

Q. マップ上の「顧客の心理」は、どのようにリサーチすればいいですか?

A. 最も確実なのは、実際に自社製品を導入してくれた顧客へのインタビューです。「検討時に一番不安だったことは何か」「社内説得で一番苦労したポイントはどこか」を直接聞くのが一番です。それが難しい場合は、日頃から顧客と接している営業担当者やサポート担当者からのヒアリングで代用します。

Q. コンテンツが不足しているフェーズが見つかった場合、どう優先順位をつければいいですか?

A. 一般的には、購買に最も近い「比較検討」や「稟議・決定」フェーズのボトルネックを解消するコンテンツ(導入事例集、他社比較表、ROI算出シートなど)から着手するのが鉄則です。ここが整備されていないと、いくら初期フェーズで集客しても途中で離脱されてしまうためです。

Q. ジャーニーマップは全商材、全ターゲット向けに作る必要がありますか?

A. 理想はそうですが、現実的ではありません。まずは自社の主力商材であり、かつ最も売上を伸ばしたいターゲット層に絞って一つ作成してください。一つ運用が定着して成果が見え始めてから、他の商材やターゲットへの横展開を検討する方が失敗のリスクを減らせます。

著者紹介
井上翔太
ウルテク| URUTEQ 事業責任者 ---- 新卒で証券会社に入社し、BtoCのセールスを経験。その後、PR代理店にてBtoB・BtoC企業向けのデジタルマーケティングコンサルティングや新規営業を担当。ログリー株式会社入社後は、BtoBマーケティング向けSaaSの開発やマーケティング、セールスなどを行う。現在は、これまでの経験を活かし、BtoBマーケAIエージェント「アカウントインテリジェンスツール ウルテク」の事業責任者を務めている。

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