BtoBマーケティング
インテントデータ
BtoBマーケティングで注目を集めるインテントデータですが、高額な専用ツールを導入しなければ活用できないと諦めている方は少なくありません。しかし、中小企業でも現在利用しているアクセス解析やMAツールを工夫するだけで、顧客の購買意欲を捉えるスモールスタートは十分に可能です。予算や専門人材が不足している環境でも無理なく始められる、インテントデータの具体的な収集と活用のステップを解説します。現場で陥りがちな失敗例や、データ活用に対するよくある懸念へのリアルな回答も交え、すぐに試せる実践的なノウハウをお届けします。

目次
インテントデータという言葉が、BtoBマーケティングの世界で頻繁に交わされるようになりました。顧客が今、何を調べ、どんな課題を抱え、どの程度購買に近づいているのか。その「意図(インテント)」をデータとして可視化できれば、最適なタイミングで的確なアプローチが可能になります。
しかし、この魅力的なコンセプトに惹かれて情報収集を始めると、多くの担当者がすぐに壁にぶつかります。市場に出回っているインテントデータ提供サービスや専用プラットフォームの多くは、非常に高機能である一方で、月額数十万円、年間で数百万円といったコストがかかるものが珍しくありません。潤沢な予算を持つ大企業ならいざ知らず、限られた予算と人員でマーケティングを回している中小企業にとって、これらは簡単に手が出せる代物ではないのが現実です。
だからといって、インテントデータの活用を諦める必要はありません。
実は、インテントデータの本質は高額なツールそのものにあるわけではなく、顧客の行動から意図を汲み取り、適切なアクションに繋げるというプロセスにあります。そしてそのプロセスは、すでに自社で導入しているアクセス解析ツールや、無料から使えるマーケティングオートメーション、あるいは日々の営業活動の記録といった、身近なデータを組み合わせるだけでも十分に構築できるのです。
目の前にある情報をどう解釈し、どう動くか。予算がないならないなりの、賢い戦い方があります。自社のリソースを見つめ直し、小さく、しかし確実に成果を生み出すためのインテントデータ活用法を探っていきます。
BtoB商材の購買プロセスにおいて、買い手は営業担当者に会う前に、すでに情報収集の大半を自力で終えていると言われています。検索エンジンで課題の解決策を探し、関連するウェブサイトのコラムを読み、比較サイトで製品のスペックを見比べる。こうした行動が水面下でひそかに行われています。
企業側からすれば、問い合わせや資料請求が来て初めて「見込み客が自社の製品を検討している」ことに気づくわけですが、その時点ではすでに競合他社と比較され、ある程度の順位付けが終わってしまっていることも少なくありません。
もし、顧客が自社のウェブサイトを熱心に読み込んでいる段階、あるいは特定のテーマについて検索し始めた段階で、その兆候を察知できたらどうでしょうか。競合に先んじて有用な情報を提供し、自社への信頼感を高めることができるはずです。この「水面下の兆候」をデータとして捉えようとする試みこそが、インテントデータの根幹にあります。

インテントデータには、大きく分けて二つの種類が存在します。
一つは、自社が独自に取得できる「ファーストパーティ・インテントデータ」です。自社のウェブサイトのどのページをどれくらい閲覧したか、過去に配信したメールマガジンのどのリンクをクリックしたか、ウェビナーに何回参加したかといったデータがこれに該当します。
もう一つは、外部のデータベンダーなどが提供する「サードパーティ・インテントデータ」です。これは、自社のウェブサイトの外、つまりインターネット全体で特定の企業がどのようなキーワードを検索しているか、競合他社の情報を調べていないかといった、より広範な行動履歴を指します。
高額な専用ツールが提供しているのは、主に後者のサードパーティデータです。「A社という企業が最近、セキュリティ対策ツールの情報をよく検索している」といった外部の行動を知らせてくれるため、まだ自社に接触していない潜在顧客を狙い撃ちできるという強力なメリットがあります。
しかし、予算が限られている中小企業が真っ先に取り組むべきは、サードパーティデータの購入ではありません。足元にあるファーストパーティデータを徹底的に使い倒すこと、それがスモールスタートの鉄則になります。

なぜ外部データを買う前に、足元のデータから始めるべきなのか。ここで少し視点を変えて、多くの企業が陥りがちな典型的な失敗パターンを見てみます。
ある中堅ソフトウェア企業が、新規リードの獲得が頭打ちになってきたことを背景に、マーケティング部門の肝煎りで高価なサードパーティのインテントデータプラットフォームを導入したケースがあります。
プラットフォームの画面を開くと、「今週、自社の関連キーワードを頻繁に検索している企業リスト」がずらりと並びます。マーケティング担当者は期待を膨らませ、抽出した企業リストをそのまま営業部門のインサイドセールスチームに渡して架電を依頼しました。
ところが、結果は散々なものでした。
リストにある企業の代表電話にアプローチをしても、相手からは「そんなツールは探していない」「社内の誰が調べているのか分からない」と冷たくあしらわれるばかり。それもそのはずで、外部データから分かるのはあくまで「その企業のネットワークから特定の検索行動があった」という事実だけであり、担当者の名前も部署も、具体的な検討フェーズも分かりません。
数週間もすると、インサイドセールスチームからは「あのリストはアポに繋がらないからもう電話したくない」という声が上がり、最終的にそのプラットフォームはほとんど開かれることなく、契約更新のタイミングで見直されることになりました。
この話から得られる教訓は明確です。いくら高度なデータでお客様の意図を察知できたとしても、「誰が、どのような文脈で調べているのか」を推測し、それに応じた適切なアプローチ手法を用意できなければ、データは単なるノイズにしかなりません。
データをアクションに変換する社内の運用プロセス、つまりデータをさばく体制が備わっていない状態で高額なツールを入れても、宝の持ち腐れになってしまうのです。

だからこそ、まずは扱いやすい自社のファーストパーティデータを使って、小さくプロセスを回す経験を積むことが重要になります。
では、具体的にどのようにして手元のデータからインテントを読み解けばよいのでしょうか。高額な投資を行わずに、明日からでも始められる三つのステップを紹介します。

最初のステップは、自社サイトのアクセス解析データを見直すことです。Google Analyticsなどの無料ツールがすでに入っている企業がほとんどだと思いますが、全体のPV数や直帰率を眺めているだけではインテントは見えてきません。
ここで見るべきは、購買意欲が高い人が必ず通るページはどこか、という視点です。
トップページや会社概要、あるいはブログのコラム記事を1ページだけ見て離脱した人は、まだ単なる情報収集の段階かもしれません。一方で、料金表のページをじっくり見ている人、導入事例のページを複数閲覧している人、あるいは競合製品との比較ページを読んでいる人は、明らかに具体的な検討フェーズに入っていると推測できます。

まずはこうした「インテントが強いページ」をいくつか特定します。そして、それらのページを閲覧したという行動を、特別なフラグとして扱うルールを決めます。
料金ページがよく見られているという全体傾向が分かっても、それが誰なのか分からなければ営業活動には繋がりません。ここで、メール配信システムやMAツール、あるいは顧客管理システムの出番となります。
現在では、スモールビジネス向けに無料で使える機能が充実したMAツールも多数存在します。これらを用いて、過去に名刺交換をした顧客や、資料請求をしてくれたリードのメールアドレスと、ウェブサイトの閲覧履歴を紐付けます。
すると、「去年の展示会で名刺交換をして以来、音沙汰がなかったB社のCさんが、今日の午前中に突然、自社の料金ページと導入事例ページを続けて閲覧した」という事実が浮かび上がってきます。
これこそが、自社データから発掘した立派なインテントデータです。過去の休眠顧客が何らかのきっかけで再び課題感を持ち、自社のことを思い出してサイトを訪れた。このタイミングを見逃さずにアプローチすることが、スモールスタートの核心です。
インテントを検知した後のアクションをあらかじめ決めておかなければ、前述した失敗談の二の舞になります。
例えば、料金ページを閲覧した既存リードを検知した場合、いきなり「料金ページを見ていただいたようですが、いかがですか」と電話をかけるのは、監視されているようで相手に不信感を与えかねません。
そうではなく、その行動を興味が再燃しているサインとだけ受け取り、アプローチの文脈は別に用意します。
「以前お渡しした資料のアップデート版ができましたので、ご参考までにお送りします」
「最近、同じ業界でこういった課題を解決した事例が公開されたのですが、ご興味ありませんか」
このように、相手にとって自然で役立つ情報提供を口実にコンタクトを取ります。データから読み取った意図は、あくまでこちらが動くための背中を押す材料として使い、顧客とのコミュニケーションにおいては、ちょうど良いタイミングで役立つ情報を持ってきた人として振る舞うのが、インテントデータを活用した営業の基本です。
インテントデータという新しい考え方を社内に持ち込むと、現場からは必ずいくつかの反発や疑問の声が上がります。すべてを理想通りに進めるのではなく、こうした懸念に真摯に向き合い、現実的な落としどころを見つけることがプロジェクトを前に進めるコツです。
自社サイトに来た人のデータだけを見ていても、市場全体で今まさに検討を始めたばかりの新しい企業は見つけられないのではないか。サードパーティデータがないと意味がないのでは、という声はよく聞かれます。
確かにファーストパーティデータだけでは、まだ自社の存在を知らない全くの新規層の意図を捉えることはできません。この指摘は理論的には正しい見解です。
しかし、現実問題として、自社と一度接点を持った休眠リードの中にも、膨大な機会損失が眠っています。まずは過去に獲得して放置されている数百、数千の名刺データの中で、今まさに動いている人を拾い上げる仕組みを作ること。そこから取りこぼしをなくすだけでも、中小企業にとっては十分に売上インパクトがあります。
落としどころとしては、確かに市場全体を網羅はできないが、まずは手元のバケツの穴を塞ぐことから始めたい。内部データで成果が出せるようになってから、初めて外部データの購入を検討するというステップ論で社内を説得するのが有効です。
複雑なデータを分析してスコアリングモデルを作ったり、行動履歴を解析したりするような高度なスキルを持つ人間はうちにはいない、という不安も根強いです。
こうした不安に対しては、あえて分析をしないという割り切りが重要になります。最初から何十もの条件を組み合わせた複雑なスコアリングを作ろうとするから専門知識が必要になるのです。
スモールスタートの段階では、複雑な計算は一切不要です。料金ページを見た、あるいは退会方法のページを見たといった、誰が見ても明らかに行動の意図が読み取れる、特定の1〜2ページの閲覧だけを通知するシンプルなルールから始めます。
これであれば、高度な分析スキルは不要です。MAツールの機能を使って、特定のURLを閲覧したら営業担当者にアラートメールを飛ばすという設定を一つ入れるだけ。まずは専門人材がいなくても回る、極限までシンプルな仕掛けからスタートし、運用に慣れてきたら少しずつ条件を増やしていくのが正解です。
わざわざウェブの閲覧通知を送っても、営業はそんなネットの動きだけで電話なんかできるかと言って、結局放置されるに決まっている、という諦めにも似た懸念です。
データ活用において最も根深い課題が、部門間の壁です。マーケティング部門が良かれと思って渡したデータが、現場の営業担当者にとっては単なる面倒なタスク増加にしか見えないというすれ違いは至る所で起きています。
これを防ぐためには、マーケティング部門が一方的にデータを送りつけるのではなく、事前に営業のエース級担当者を巻き込んでルールを作ることが不可欠です。
どういうページを見ているお客様なら、電話をかけやすいか。その際、どういう口実があれば自然にアプローチできるか。これらを営業担当者と一緒に考えます。そして最初は、全員にデータを渡すのではなく、協力的な担当者と一緒にテスト運用を行い、「あの通知が来たときに電話したら、本当に商談に繋がった」という小さな成功体験を作ります。

その実績を社内で共有することで、他の営業担当者も徐々にデータに価値を感じてくれるはずです。
ここまで読み進めていただくと、なぜ予算がないならないなりに、まずは内部のファーストパーティデータから始めるべきだとしているか、その背景がお分かりいただけるかと思います。
外部のインテントデータは強力ですが、扱う側の体制が整っていないと使いこなせません。自社のウェブサイトの特定のページを見たという、非常にわかりやすく文脈が明確な顧客に対してすら適切なアプローチができない組織が、外部の漠然とした検索行動データを見せられても、どう声をかけていいか迷ってしまうのは明白です。
インテントデータ活用で最も難しいのは、データの収集そのものではなく、データに基づくコミュニケーションの設計にあります。顧客が何を求めているのかを想像し、押し売りにならない形で手を差し伸べる。この仮説検証のサイクルを回すための訓練環境として、自社のファーストパーティデータほど最適なものはありません。
まずはコストをかけず、すでにあるリソースを使って兆候を察知し、動くという社内の新しい体制を築くこと。それこそが、将来的に高度なツールを導入した際にも活きる、最強の土台となります。
インテントデータの活用は、決して導入すれば勝手に売上が上がるようなものではなく、地道な顧客理解と、営業・マーケティング間の対話の積み重ねの上に成り立つものです。
だからこそ、予算の有無は本質的な言い訳にはなりません。今すぐできることはたくさんあります。
まずは、自社のアクセス解析ツールを開き、過去1ヶ月間で料金ページや事例ページがどれくらい見られているかを確認してみてください。そして、それが誰なのかを特定できる仕組みが自社にあるか、あるいはどうすれば作れるかを考えてみましょう。
特別なシステムを入れなくても、既存の顧客リストに定期的に役立つ情報をメールで送り、そのクリック状況を営業担当者に共有するだけでも、立派なインテントデータの活用第一歩です。
※なお、ウェブサイトにおけるCookieの利用や行動履歴の取得にあたっては、プライバシーポリシーへの明記や同意取得など、個人情報保護の観点での配慮が必要になります。新しい仕組みを導入する際は、関連法令に則った運用を心がけてください。
大切なのは、顧客の行動に隠された声なき声に耳を傾けようとする姿勢です。手元にあるデータを見つめ直すことから、組織に合ったインテントデータ活用法を模索してみてください。自社の状況に合わせた具体的なステップの設計や、MAツールの初期設定に不安がある場合は、専門家の知見を借りるのも一つの手です。まずは小さなテストから、顧客との新しいコミュニケーションの形を作っていきましょう。
Q. インテントデータとは簡単に言うと何ですか?
A. 顧客がインターネット上で行う検索やウェブサイトの閲覧履歴などから、「今、どんな課題を持ち、何を求めているか」という意図(インテント)を読み取れるようにしたデータのことです。これにより、相手が検討を進めている絶好のタイミングでアプローチが可能になります。
Q. 予算ゼロでもインテントデータは活用できますか?
A. はい、可能です。高額な外部データを購入しなくても、自社サイトのアクセス解析や無料・低価格のMAツールを使って、「自社の料金ページを見た既存リード」を特定するといったファーストパーティデータの活用から始めることができます。
Q. スコアリングモデルの構築は必要ですか?
A. スモールスタートの段階では不要です。複雑な点数付けを行うより、「特定の重要ページを閲覧した」というシンプルな事実だけをトリガーにして、営業に通知を送る仕組みから始める方が、運用が定着しやすくなります。
Q. 営業部門が通知を無視してしまいます。どうすればいいですか?
A. マーケティング部門が一方的にデータを送るのではなく、事前に「どのような行動をした顧客ならアプローチしやすいか」「どんなトークスクリプトがあれば自然か」を営業と一緒に設計することが重要です。最初は協力的な少数の営業担当者と成功事例を作り、それを社内に共有して賛同を広げていくアプローチをおすすめします。
Q. サードパーティデータの導入はどのタイミングで検討すべきですか?
A. まずは自社のファーストパーティデータを活用し、インテントを検知して営業がアプローチし、商談化するという社内の運用プロセスが確立されてから検討すべきです。この土台がないまま外部データを購入しても、リストを活かしきれず無駄なコストになってしまうリスクが高いためです。
Q. ウェブサイトのアクセスが少ない場合でも意味はありますか?
A. アクセス数の絶対量より、質が重要です。数が少なくても、過去に名刺交換をした見込み客が数ヶ月ぶりにサイトを訪れたといった情報をキャッチできれば、それは非常に確度の高い商談のチャンスになります。まずは既存の顧客リストを活性化させる視点で取り組んでみてください。
Q. 個人情報保護の観点で気をつけることはありますか?
A. ウェブサイトにおけるCookieの利用や行動履歴の取得については、プライバシーポリシーに明記し、必要に応じてユーザーからの同意を得るなど、個人情報保護法および関連法令に則った適切な運用が不可欠です。データ取得の仕組みを整える際は、必ず自社の法務担当等とポリシーの確認を行ってください。
Q. 閲覧履歴を元に電話をかけると、顧客に警戒されませんか?
A. 「今サイトを見ていましたね」と直接的に伝えるのは避けるべきです。データはあくまでこちらがアプローチするタイミングを測るための裏側の情報として使い、実際のコミュニケーションでは「以前お話した件に関連する新しい資料ができたので」「最近の業界動向で役立つ情報があったので」といった、顧客にとって有益な情報提供を口実に連絡を取るのが鉄則です。
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