AI
インテントデータ
従来の「スコア80点だから架電」という運用は、顧客の温度感が見えず現場の疲弊を招きがちです。本記事では、点数化をやめ、AIに来訪企業の「検討フェーズ(温度帯)」を推定させ、「なぜ今アプローチすべきかの根拠」と「そのまま使えるトーク」まで生成させる手法を解説。数値遊びから脱却し、営業が即座に動ける質の高いリード情報を届けるための具体的設計とプロンプトを紹介します。

目次
BtoBマーケティングの現場で、長年繰り返されてきた光景があります。
ウェブサイトの来訪ログをもとに、マーケティングオートメーション(MA)ツールでスコアリングを設計する。「滞在10秒でプラス1点」「料金ページ閲覧でプラス5点」「事例ページの回遊でプラス3点」。そうして積み上げたスコアが一定を超えた企業リストをインサイドセールス(IS)に渡す。
しかし、現場から返ってくる反応は冷ややかなものです。「このスコアが高い企業、電話しても全然つながりません」「検討なんてしていませんでした、ただの勉強目的だそうです」。
なぜ、こうしたすれ違いが起きるのでしょうか。それは、スコアという「一次元の数値」だけでは、複雑なBtoBの検討プロセスを表現しきれないからです。スコアが高くなる要因は、純粋な興味だけではありません。迷子になって同じページを行き来していたり、離席中にタブを開きっぱなしにしていたり、あるいは社内共有のためにURLをコピーしようと何度もアクセスしていたりするだけでも、点数は積み上がります。
数字は嘘をつきませんが、数字の「背景」はいくらでも嘘をつきます。
そこでおすすめしたいのが、正解のないスコア調整に時間を費やすのをやめ、AIに「温度帯(段階)」を推定させるアプローチです。単なる点数ではなく、「いま、この企業はどの検討フェーズにいるのか」「なぜそう判断したのか」「次になにをすべきか」までをセットで出力させる。
本記事では、広告と営業をつなぐ実務的な解決策として、匿名来訪企業のログを活用したAIによる優先度づけの設計と、実際にそのまま使えるサンプルプロンプトをご紹介します。数値遊びに終止符を打ち、今日誰にアプローチすべきかを迷わず決められる状態を目指しましょう。
多くのBtoB企業が導入しているスコアリングモデルには、構造的な限界があります。あるマーケティング担当者の経験談として、よくある失敗パターンを見てみましょう。
その企業では、MAツールを導入したばかりでした。意欲的なマーケターは、あらゆる行動に配点を行いました。ホワイトペーパーダウンロードは10点、ウェビナー参加は20点、製品ページ閲覧は5点。合計50点を超えたら「ホットリード」としてISに通知が飛ぶ仕組みです。
運用開始から1ヶ月。ISチームのリーダーから相談が来ました。「ホットリードの定義を見直してほしい」。理由を聞くと、50点を超えたリードの中身があまりにバラバラだと言うのです。ある企業は、1年前に大量の資料をダウンロードしただけで最近は全く動きがないのに、累積スコアで50点を超えていました。別の企業は、昨日あちこちのページを見て50点を超えましたが、調べてみると競合他社の調査部門でした。
マーケターは慌てて「直近の行動のみ加点する」「競合ドメインを除外する」といった調整を行いましたが、今度は「本当のアプローチすべき企業」まで除外されてしまい、リード数が激減してしまいました。
この事例が示唆するのは、行動ログを単純に足し算するだけでは、相手の「文脈」が見えないということです。点数は、過去の行動の総量を示しているに過ぎず、現在の熱量(温度感)とは必ずしも相関しません。
また、受け取る側の心理的なハードルもあります。「スコア80点の企業です」と渡されても、営業担当者はどう動けばいいのか分かりません。「で、何の話をすればいいの?」「なんで80点なの?」という疑問が先に立ち、結局自分でログを一件一件見に行くことになります。これでは、何のための自動化かわかりません。
必要なのは、数字の羅列ではなく、人間の直感に近い「解釈」です。

では、点数の代わりに何を出せば現場は動けるのでしょうか。匿名来訪企業のログ(1st partyデータ)や、もしあれば外部のインテントデータ(3rd partyデータ)をAIに読み込ませ、次の4つの要素を出力させる設計をおすすめします。これが揃うと、運用が劇的にスムーズになります。
まずは、その企業がいまどの検討フェーズにいるかを言語化させます。例えば、「Cold(無関心・初期)」「Aware(認知・課題感あり)」「Engaged(比較検討・関心高)」「Hot(直近導入の兆しあり)」といった分類です。
重要なのは、ここに「確信度(High / Medium / Low)」を添えることです。AIも万能ではありません。データが少なくて判断しきれない場合や、行動が矛盾している場合は、「Engaged(確信度:Low)」のように出力させることで、受け取る人間側に「あくまで参考程度にしておこう」という判断の余地を残せます。
なぜその温度帯と判断したのか、その理由を箇条書きで3点ほど提示させます。これが営業担当者の納得感を醸成するために最も重要な要素です。
たとえば、「Engaged」と判定した理由として、「直近48時間以内に3回再訪している」「料金ページから導入手順ページへ遷移し、最後に事例ページを閲覧している」「特定の機能比較ページに3分以上滞在している」といった具体的な行動事実を並べます。これを見れば、営業担当者は「なるほど、確かに調べていそうだ」と腹落ちして架電できます。
判定結果に基づいて、具体的にどう動くべきかを提案させます。「フォーム営業を送る」「インサイドセールスが架電する」「今は何もしない(追客広告のみ配信する)」といった選択肢から、最適なものを選ばせます。
さらに、「〇月〇日までに」という期限や、「課題のヒアリングを目的とする」「資料送付の承諾を得ることをゴールにする」といった目的もセットにします。これにより、アクションの質が担保されます。
ここがAI活用の真骨頂です。アクションを決めるだけでなく、その実行に必要な「材料」まで作らせてしまいます。
フォーム営業なら「送信文面のドラフト(150文字程度)」、架電なら「冒頭のトークスクリプト(30秒程度)」、追客広告なら「訴求すべき軸とオファー内容」を生成させます。企業ごとの閲覧ログ(関心事項)を踏まえた内容になるため、汎用的なテンプレートよりもはるかに反応率の良い文面が期待できます。
これら4つがセットで出力されれば、朝一番にリストを見たIS担当者は、ログを解析する時間をゼロにして、いきなり「架電」や「メール送信」という本来の業務に取り掛かることができます。
AIに的確な判断をさせるためには、入力するデータの質と選び方が重要です。とはいえ、最初から膨大なデータをすべて連携させる必要はありません。ブログ読者のみなさんがイメージしやすいように、まずは「最低限これだけあれば良い推定が出る」という最小セットを整理します。
最も基本的かつ強力なのが、自社サイト内での行動データです。ここでは、会社単位(ドメイン単位)で集計されたデータを用います。
一つ目は「直近N日(たとえば14日間)のアクセス状況」です。セッション数はもちろんですが、直近訪問日や、期間内の再訪回数、訪問間隔も重要です。毎日来ているのか、2週間に1回なのかで、検討の緊急度が変わるからです。
二つ目は「ページカテゴリ別の閲覧状況」です。ここが最大のポイントです。単に「どのページを見たか」ではなく、ページを「役割」ごとにグルーピングして渡します。「課題啓蒙記事」「導入事例」「料金表」「機能詳細」「他社比較」「導入手順・ヘルプ」といった具合です。AIは「課題記事ばかり見ている企業はまだ情報収集中(Aware)」「料金と導入手順を見ている企業は稟議準備中(Hot)」といった推論が得意です。

三つ目は「滞在の質」です。平均滞在時間や最大滞在時間に加え、「10秒超のセッション比率」のような指標を入れると精度が上がります。一瞬で直帰したセッションを除外して評価するためです。
四つ目は「回遊と遷移」です。平均閲覧ページ数や、よくある遷移パス(トップ→機能→事例、など)も有効です。
これは必須ではありませんが、あると精度が格段に上がります。外部のインテントデータプロバイダーなどが提供している「サイト外での興味関心データ」です。
自社サイトに来る前に、その企業がウェブ全体でどんなキーワードを検索しているか、どんなメディア記事を読んでいるか。競合他社の名前を調べていたり、「〇〇システム 比較」「〇〇 導入価格」といったキーワードでの検索が増えていたりすれば、強いシグナルになります。
これらのデータを、会社IDをキーにして横串でAIに渡すことで、AIは「自社サイトでの動き」と「世の中での動き」を統合して判断できるようになります。

それでは、実際にこれらを実装するためのプロンプト例をご紹介します。ChatGPTやClaudeなどのLLM(大規模言語モデル)に入力して使用することを想定しています。
このプロンプトは、個人情報の特定を行わず、あくまで「会社単位」での傾向分析とアクション提案を行うように設計されています。また、AI特有の「知ったかぶり(ハルシネーション)」を防ぐために、確信度と根拠を必ずセットで出させる制約を入れています。
以下をコピーして、ご自身の環境に合わせて調整してみてください。
前提定義 あなたはBtoBマーケティングおよびRevOps(Revenue Operations)のアナリストであり、インサイドセールスを支援する優秀なAIアシスタントです。 あなたの目的は、「匿名来訪企業の行動ログから、商談化につながる最適な次アクションを迷いなく提示すること」です。
入力データ 以下の会社別ログ(1st partyデータ)と、可能であればサイト外の興味関心データ(3rd partyデータ)を提供します。
制約条件
出力してほしい内容(会社ごと)
出力形式 まず全体サマリ(Hot/Engagedの社数、全体の傾向、広告起点の所感など)を記述し、その後に優先度順で会社別の結果を出力してください。
会社別フォーマット例 【会社名/ID】
このプロンプトの肝は、AIの出力を「営業がそのまま動ける形」に固定している点です。単なる分析結果ではなく、「生成物」まで出させることで、実務への導入ハードルを極限まで下げています。
マーケティング担当者は、この出力結果を見ることで、どの広告キャンペーンが質の高いリードを連れてきているかを即座に理解できます。IS担当者は、架電前に「なぜ電話するのか」の理由をAIから受け取り、迷いなく受話器を取れます。そして事業責任者は、コンバージョン(CV)数だけに依存するのではなく、まだ問い合わせ前の「匿名来訪企業」を商談の母数として捉え、パイプラインを太くする戦略を描けるようになります。

さて、ここまで読んで「理屈はわかるが、本当に現場で回るのか?」と疑問を持たれた方もいるかもしれません。新しい手法を導入する際には、必ず現場からの懸念や反論が上がります。ここでは、想定される3つの「待った」に対し、実務的な回答を用意しました。
一つ目は、「スコアを完全になくして大丈夫なのか?」という懸念です。 結論から言えば、大丈夫です。むしろ、意思決定の軸をスコアから「温度帯+根拠」に移すほうが、運用は安定します。ただし、MAツールの仕様上、スコア自体を消す必要はありません。スコアはあくまで「足切りのライン」や「長期的なトレンド把握」のための参考値として裏で残しておき、日々のISへのリスト共有やアプローチ判断には、AIによる温度帯判定を使うという「併用」から始めるのがスムーズです。
二つ目は、「3rd partyデータがないと精度が出ないのではないか?」という疑問です。 確かに外部データがあれば鬼に金棒ですが、無くても十分に運用は回ります。まずは1st partyデータ(自社サイト内の行動)だけで始めてみてください。「料金ページを見た後に事例ページを3つ見ている」「一度離脱したが3日後に再訪した」といったログだけでも、AIはかなりの精度で確度の高さを推定できます。まずは手持ちのデータでスモールスタートし、成果が出てから外部データの導入を検討すれば良いのです。
三つ目は、「営業がAIの言うことを信じてくれないのではないか?」という、最も人間味のある悩みです。 これは「ブラックボックス化」させないことで解決します。AIが「この会社はHotです」とだけ言っても、ベテラン営業は動きません。しかし、「直近3日で料金ページを5回閲覧しており、かつ導入手順ページへの遷移が確認できたため、具体的検討に入っている可能性が高い」という「根拠」が添えられていれば、話は別です。プロンプトで「根拠を3点で出す」と固定しているのは、このためです。営業担当者が自分の目でログを確認しに行ったときに「AIの言っている通りだ」と思える体験を数回積み重ねれば、信頼は自然と醸成されます。

この「温度帯推定」のアプローチは、単なる業務効率化以上のインパクトを組織にもたらします。
まず、マーケティングとセールスの「共通言語」が生まれます。「50点以上のリード」という無機質な定義ではなく、「比較検討フェーズにいる顧客」という顧客起点の共通認識を持って会話ができるようになります。これにより、定例会議での不毛な責任の押し付け合いが減り、建設的な議論が増えるでしょう。
また、インサイドセールスの役割が「架電マシーン」から「戦略的なアプローチ実行者」へと進化します。AIが下準備を済ませてくれる分、人間は「この仮説に対して、どう切り出せば相手の心を開けるか」という、本来注力すべきコミュニケーションの質に時間を使えるようになります。
さらに、事業全体としては、顕在化した「問い合わせ客」だけの奪い合いから脱却し、潜在的なニーズを持つ「匿名客」への先回りアプローチが可能になります。これは、競合他社がまだ気づいていない段階で接点を持てることを意味し、中長期的な競争優位性につながります。

ツールやデータは、あくまで手段に過ぎません。どんなに高機能なMAツールを入れても、どんなにリッチなデータを買っても、最終的に「今日、誰に、何をするか」が決まらなければ、売上は一円も増えません。
従来のスコアリング運用で疲弊しているなら、一度その点数表を横に置き、AIという新しいパートナーに「解釈」を任せてみてください。AIは文脈を読み解き、理由を語り、下書きまで用意してくれます。
重要なのは、完璧な正解を求めることではありません。確信度が低くても、まずは仮説を持って動くこと。そして、その結果をまたデータとして蓄積していくこと。そのサイクルの中心に、このAI推定の設計を据えてみてください。きっと、現場の景色が変わるはずです。
もし、自社のログデータの整備状況に不安があったり、具体的なプロンプトの調整で迷ったりした場合は、まずは「直近1週間の再訪ログ」だけをAIに読ませてみることから始めてみましょう。小さく試して、手応えを感じたら広げていく。それが、データ活用を成功させる一番の近道です。
Q. 既存のスコアリング設定はすべて削除すべきですか? いいえ、裏側で残しておくのが無難です。長期的なトレンド把握や、明らかに確度の低いリードの足切り(フィルタリング)にはスコアが依然として有効です。日々の営業アプローチの優先順位付けにおいて、判断軸をAIによる「温度帯」へ徐々に移行することをおすすめします。
Q. 外部のインテントデータ(3rd partyデータ)を契約していませんが、この施策は可能ですか? はい、自社サイトのログ(1st partyデータ)だけでも十分な成果が見込めます。「料金ページを見た後に導入事例へ遷移した」「一度離脱したが3日後に再訪した」といった行動パターンだけでも、AIは確度の高さをかなり正確に推測できます。まずは手持ちのデータでスモールスタートしましょう。
Q. 営業担当者が「AIの判断なんて信用できない」と言わないでしょうか? 「根拠」をセットで提示することで信頼を得やすくなります。単に「この企業はアツいです」と伝えるのではなく、「直近で料金ページを3回閲覧し、導入手順も確認しているため」という事実ベースの理由を添えるのがポイントです。実際にログを確認してAIの指摘が正しいと分かれば、現場の信頼は自然と高まります。
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