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インテントデータでGTM(Go-To-Market)を進化させる | 「絵に描いた餅」を「生きた設計図」に変える実践論

【記事概要】

本稿では、BtoB企業のGTM(Go-To-Market)戦略において、インテントデータ(顧客のオンライン上の興味関心を示す行動データ)を活用し、静的な計画を「生きた戦略」へと進化させる具体的な手法を解説します。

多くのGTM戦略が形骸化する原因は、顧客の検討プロセスの変化をリアルタイムに捉えられていないことにあります。インテントデータを単なるリスト作成ツールとしてではなく、戦略の羅針盤として以下の4つのフェーズに組み込むことで、勘と経験に頼らないデータ駆動型の意思決定が可能になります。

  1. 市場・セグメント選定: 興味関心の総量と熱量に基づき、狙うべき市場をファクトベースで特定する。
  2. ICP・メッセージ設計: 検索キーワードや閲覧文脈からニーズの解像度を高め、刺さる訴求を開発する。
  3. チャネル・プロセス設計: 顧客の熱量に合わせて、広告・ウェビナー・インサイドセールスのリソース配分を最適化する。
  4. 検証・改善ループ: 施策に対する市場の反応を早期に検知し、戦略を短サイクルで修正し続ける。

以下、これらのメカニズムを「カーナビ」と「渋滞情報」のアナロジーを用いて、現場で明日から使えるレベルまで具体的に掘り下げて解説します。ぜひ最後までお読みいただき、貴社の戦略アップデートにお役立てください。


はじめに

多くのBtoB企業において、GTM(Go-To-Market)戦略とは何でしょうか。期初に経営会議で承認された、美しいパワーポイントの資料。あるいは、全社キックオフで共有されたものの、翌週には誰も見返さなくなる「理想の図」かもしれません。

市場環境が激変し、顧客の検討プロセスがブラックボックス化していく現代において、静的なGTMはすぐに陳腐化します。戦略が現場の動きと乖離し、「絵に描いた餅」になってしまう現象は、規模を問わず多くの組織で起きています。

ここで重要な鍵を握るのがインテントデータです。これを単なる「Webサイト訪問履歴」や「検索ログ」として限定的に捉えるのはあまりにも勿体ない。インテントデータとは、検索行動も含めた「オンライン上のあらゆる興味関心ごと」の集合体であり、GTMを「静的な資料」から、顧客の心の動きに合わせて毎日アップデートされ続ける「生きた設計図」へと進化させる燃料になるからです。

本稿では、GTMの策定から実行、検証に至るプロセス全体において、この「オンライン上の興味関心データ」をどのように組み込み、意思決定の精度を高めていくべきか。そのロジックと実践手法を、現場のリアリティを交えて紐解いていきます。

なぜ、あなたの会社のGTMは「作って終わり」になるのか

GTM戦略とは本来、「どの市場で、誰に、どんな価値を、どのような手段で届けるか」を定義したビジネスの設計図です。しかし、この設計図が機能しなくなる最大の要因は、その前提となっている「情報」の鮮度と精度にあります。

多くの場合、ターゲット市場やペルソナは、過去の実績データや経営陣の肌感覚、あるいは数年に一度の市場調査に基づいて設定されます。「最近、製造業のDXが盛り上がっているらしい」「従業員数100名以上の企業なら予算があるはずだ」といった仮説は、設定した時点では正しかったかもしれません。

しかし、顧客は待ってくれません。彼らの興味関心は日々移ろい、検討フェーズは刻一刻と変化します。企業側が「このターゲットを攻める」と決めたタイミングと、顧客が「課題を解決したい」と思うタイミングには、往々にしてズレが生じます。このズレこそが、営業効率の低下やマーケティングROIの悪化を招く根本原因です。

ここで必要になるのが、静的な属性データ(ファーモグラフィクス)だけでなく、動的な行動データ、すなわちインテントデータの活用です。顧客が今、どのようなトピックに関心を持ち、オンライン上でどのような情報を摂取しているのか。その「興味の現在地」をリアルタイムで把握できなければ、どれほど精緻なGTMも機能しません。

GTMとインテントデータの関係性を「カーナビ」で理解する

GTMとインテントデータの関係性は、車の運転に例えると非常に分かりやすくなります。

GTM戦略とは「カーナビが示すルート」のようなものです。目的地(売上目標)に対して、どの道を通れば最短で到達できるかを示した計画です。高速道路を使うのか、一般道を行くのか。それは市場選定やチャネル戦略にあたります。

一方でインテントデータは、「リアルタイムの渋滞情報」です。カーナビが示したルートが理論上の最短だとしても、実際には事故で通行止めになっているかもしれないし、思いがけない抜け道が空いているかもしれません。「今、この道は混んでいるから避けたほうがいい」「こっちの道にニーズ(興味関心)が溢れている」という動的な状況を教えてくれるのがインテントデータです。

渋滞情報を見ずに、古い地図だけを頼りに運転し続けるドライバーはいません。しかしビジネスの世界では、多くの企業が期初に決めたルートに固執し、目の前の渋滞(顧客の無関心や競合の攻勢)に突っ込んでしまっています。

インテントデータをGTMに組み込むということは、勘と経験だけで描いた地図を、リアルな顧客の興味関心に基づいて描き直し続けるサイクルを作ることと同義です。では、具体的にGTMの4つのフェーズにおいて、どのように活用すべきかを見ていきましょう。

フェーズ1:市場・セグメント選定──「経営陣の勘」からの脱却

GTMの第一歩は「どこで戦うか」、すなわち市場やターゲットセグメントの選定です。

ここでやりがちな失敗は、経営陣や事業責任者の思い込みでターゲットを決めてしまうことです。「次はエンタープライズを攻めたい」「金融業界に可能性があるはずだ」という号令の下、現場が疲弊しながら成果の出ないテレアポを続ける光景は珍しくありません。

インテントデータを使えば、この意思決定をファクトベースに変えることができます。

例えば、「SaaS導入」「デジタルマーケティング」「業務自動化」といった、自社ビジネスに関連するトピックやキーワード群を設定し、Web上でそれらの情報に活発に接触している企業をモニタリングします。検索行動だけでなく、関連する専門メディアの記事閲覧や、競合比較サイトでの行動など、オンライン上のあらゆる足跡が「興味のシグナル」となります。

そうして分析すると、意外な事実が見えてくることがあります。「IT業界を狙っていたが、実は製造業からのインテント(興味関心)が急増している」「大手企業よりも、急成長中の中堅企業の方が具体的な解決策を探している」といった発見です。

データによって「需要の総量」と「熱量」が可視化されれば、「インテント数は多いが単価が見込めない市場」の優先度を下げ、「競合は少ないがインテントが濃いニッチ市場」にリソースを集中させるといった、精度の高い優先順位付けが可能になります。これは、闇雲な絨毯爆撃から、勝算の高い戦場を選ぶスナイパー型の戦略への転換を意味します。

フェーズ2:ICP・メッセージ設計──「解像度」が成約率を決める

ターゲット市場が決まったら、次は「誰に・どんな価値を届けるか」の設計です。ここで重要になるのがICP(理想的な顧客像)の解像度です。

多くの企業が設定するICPは、「従業員100〜500名のBtoB企業で、営業効率化に課題がある会社」といった、非常にふわっとしたものです。これでは、提供するメッセージも「営業を効率化するツールです」という、誰にでも当てはまるが誰の心にも刺さらない平凡なものになってしまいます。

インテントデータは、このICPの解像度を劇的に引き上げます。同じ「営業に課題がある企業」でも、彼らが具体的にどのようなトピックに関心を持ち、オンライン上でどのような文脈(キーワード)で情報を探しているかを分析することで、ニーズの深層が見えてきます。

例えば、ある企業群は「インサイドセールス 立ち上げ」「リスト作成 ツール」といったトピックに強い関心を示しているとします。一方で別の企業群は、「展示会 お礼メール」「名刺管理 SFA連携」といった文脈の情報に頻繁にアクセスしているかもしれません。

前者は「リード獲得後のアプローチ体制」に困っている層であり、後者は「獲得した名刺情報の活用」につまずいている層です。これらが見えてくれば、同じツールを売るにしても、アプローチする際のメッセージは全く異なるものになるはずです。

前者には「インサイドセールスが今日から架電できるリストを自動生成」と訴求し、後者には「展示会で集めた名刺を、眠らせずに商談に変える仕組み」と伝える。相手が今まさに興味を持っていることに対して、ジャストタイミングで解決策を提示するからこそ、メッセージは深く刺さります。インテントデータは、顧客の頭の中にある「関心事」を教えてくれるのです。

フェーズ3:チャネル・プロセス設計──リソース配分の最適解

誰に何を伝えるかが決まれば、次は「どうやって届けるか」です。広告、展示会、ウェビナー、アウトバウンドコールなど、手札は数多くありますが、予算も人員も有限です。どのチャネルにどれだけのリソースを投下すべきか。この意思決定にもインテントデータが効きます。

例えば、広告経由のトラフィックよりも、展示会後のフォローメールや指名検索経由のユーザーの方が、深い製品ページまで回遊しているデータが見えたとします。あるいは、「ブランド名 + 評判」「ブランド名 + 料金」といった具体的な検討トピックに関心を寄せている企業群の方が、圧倒的に商談化率が高いという傾向が見えるかもしれません。

こうしたデータがあれば、「薄く広く網羅するディスプレイ広告の予算を削り、強いインテント(興味)を示している企業に絞ったABM(アカウントベースドマーケティング)広告に寄せよう」といった判断ができます。あるいは、「展示会で接点を持った企業に特化したウェビナーを開催しよう」という施策が、確信を持って打てるようになります。

さらに、セールスプロセス(誰がどうアプローチするか)の設計においても、インテントデータは強力な指針となります。

インテント(興味関心の度合い)が非常に強く、かつ自社のICP(適合度)も高い企業に対しては、SDRやBDRなどのインサイドセールス部隊が、速やかに電話でアプローチすべきです。一方で、ICPとしての適合度は高いものの、まだインテントが弱い(情報収集や勉強段階と思われる)企業に対して、いきなり「商談しませんか」と電話をするのは逆効果になりかねません。こうした層には、メルマガやセミナー招待によるナーチャリングを中心とした、長期的な関係構築プロセスを割り当てるべきです。

「誰からアタックすべきか」という日々の営業リストの優先順位を、現場の勘ではなく、顧客のオンライン上のシグナルに基づいて自動的に並べ替える。これにより、営業リソースの無駄打ちを減らし、最も成約に近い案件にトップセールスの時間を集中させることが可能になります。

【ケーススタディ】あるBtoBマーケターが陥った「展示会後の疲弊」と「再生」

ここで、あるSaaS企業のマーケティング担当者の話をご紹介しましょう。仮に彼をBさんとします。

Bさんの会社は、業界最大規模の展示会に多額の予算を投じて出展しました。ブースは大盛況で、3日間で2,000枚以上の名刺を獲得。社内は活気づき、経営陣からも「このリードをすぐに刈り取れ」と大号令がかかりました。

翌週から、インサイドセールスチームによる一斉架電が始まりました。2,000件のリストに対し、上から順に電話をかけ続ける日々。しかし、結果は散々でした。「今は結構です」「ただノベルティが欲しかっただけです」という冷たい反応ばかり。チームは疲弊し、アポ獲得率は1%を割り込みました。「展示会のリードは質が悪い」という空気が社内に蔓延し、Bさんは責任を感じていました。

そこでBさんは、アプローチの手法を根本から変えることにしました。全件に電話するのをやめ、インテントデータを活用することにしたのです。

獲得した2,000社のリストをデータツールに取り込み、展示会後のオンライン行動をトラッキングしました。すると、ある興味深い事実が見えてきました。大半の企業は展示会後に何もアクションしていませんでしたが、約150社ほどの企業が、展示会終了後の数日以内に、自社サイトの「導入事例ページ」や「料金プラン」を閲覧したり、競合他社の情報と比較したりする動きを見せていたのです。

Bさんは、この「興味関心の動きがある150社」だけを抽出し、インサイドセールスに渡しました。残りの企業には、有益な情報を提供するメールマガジンを送るだけに留めました。

結果は劇的でした。熱量の高い150社への架電では、アポ獲得率が15%を超えました。顧客側も「ちょうど展示会で見て気になって、社内で話していたところです」と、話が早かったのです。チームの疲弊感は消え、「今すぐ話すべき相手」に集中できる環境が整いました。

Bさんはこの経験から学びました。重要なのはリードの「数」ではなく、顧客が発する「興味のシグナル」を見逃さないこと。そして、そのシグナルに合わせてGTM(誰に、いつ、どうアプローチするか)を柔軟に変えることだと。

フェーズ4:検証・改善ループ──GTMを「生きた戦略」にし続ける

GTMは一度作って終わりではありません。「仮説→実行→検証→修正」のループを回し続けることこそが本質です。しかし、多くの企業ではこのサイクルが半年や一年単位になってしまい、市場の変化に追いつけません。

インテントデータは、このPDCAサイクルを高速化するセンサーの役割を果たします。

新しいターゲットセグメントに向けて広告を出した翌週には、「狙った業界からのインテント(関心度)が本当に上昇しているか?」を確認できます。新しく打ち出した「業務効率化」というメッセージに対して、関連するトピックでの流入が増えているか、あるいは別の「コスト削減」という文脈での反応の方が良いか、といった市場の反応をほぼリアルタイムで把握できます。

もし、狙ったセグメントからの反応が薄ければ、早期に撤退やメッセージの修正という判断が下せます。逆に、予期していなかったテーマでのインテントが伸びていれば、そこにリソースを寄せるという攻めの判断も可能です。

結果が出るまで数ヶ月待つのではなく、先行指標としてのインテントを見ながら、週次や月次でGTMを微調整していく。このスピード感こそが、変化の激しい現代における競争優位性となります。

「データさえあれば勝てる」わけではない──現場が抱く3つの懸念

ここまでインテントデータの有用性を説いてきましたが、もちろん万能ではありません。導入を検討する際、現場からは真っ当な懸念や反論が出るでしょう。ここでは代表的な3つの懸念と、それに対する現実的な回答を提示します。

1. 「データを見たところで、どう動けばいいか分からないのでは?」

これは最も多い懸念です。ダッシュボードに「この企業が関心を持っています」と表示されても、営業担当者がその情報をどうトークに活かせばいいか分からなければ意味がありません。

回答: データを見せるだけでは不十分です。データを「アクション」に変換するルール作りがセットで必要です。「料金ページを見た企業には、見積もり提案の打診をする」「特定の課題トピックに関心がある企業には、その課題を解決した事例を紹介する」といった、シグナルに応じた具体的なネクストアクション(プレイブック)をマーケティングとセールスが握り合うことが重要です。

2. 「Web行動だけで、本当に買う気があると言えるのか?」

「Webを見ているからといって、本当に買う気があるとは限らない」「ただの勉強目的かもしれない」という疑念です。これは事実です。インテントはあくまで「興味の兆候」であり、「購入の確約」ではありません。

回答: 過信は禁物です。しかし、「兆候すらない企業」にアタックするよりは、はるかに確率が高いことも事実です。重要なのは、インテントデータを「唯一の正解」として扱うのではなく、他の情報(企業規模、決裁権の有無、過去の取引履歴など)と組み合わせて総合的に判断することです。インテントは、アプローチのタイミングや話題の切り口を図るための「有力な手がかり」の一つと捉えるのが健全です。

3. 「現場の負担が増えるだけではないか?」

新しいツールを導入し、確認すべきデータが増えることへの抵抗感です。「忙しいのに、これ以上画面を見させないでくれ」という声は切実です。

回答: ツールを増やすのではなく、既存の業務フローに溶け込ませることが成功の鍵です。SFA(営業支援システム)やチャットツールと連携させ、「関心が高まっている企業」の情報が自動的に、いつもの画面に通知される仕組みを作ります。営業担当者がわざわざ分析ツールを見に行かなくても、普段の業務の中で自然とインテントデータに触れられる環境を整えることが、定着への近道です。

まとめ:GTMを現場レベルの「実弾」に変えるために

インテントデータとは、突き詰めれば「市場が今どこを向いているか」「誰がどこまで検討しているか」を教えてくれる行動のログです。それは検索行動に限らず、オンライン上での閲覧、回遊、比較といったあらゆる「興味関心の表れ」を含みます。

これを単なるツールとしてマーケティング部門の中だけで完結させてはいけません。GTM戦略全体の根幹に据え、市場選定からメッセージ開発、日々の営業活動、そして戦略の修正に至るまで、すべてのフェーズに「顧客のリアルな興味の動き」を反映させること。それが、「勘と経験頼みのGTM」から「データ駆動のGTM」への進化です。

インテントデータを正しく活用できれば、GTMはもはや、経営層だけが見る「絵に描いた餅」ではなくなります。それは、現場の営業担当者が今日電話をかける先を決め、マーケターが今日配信するメールの内容を決めるための、具体的で強力な「実弾」となります。

顧客は常に動いています。その動きを捉え、戦略をアップデートし続ける企業だけが、変化の時代を生き抜くことができるのです。あなたの会社のGTMは、今、生きていますか?

著者紹介
井上翔太
ウルテク| URUTEQ 事業責任者 ---- 新卒で証券会社に入社し、BtoCのセールスを経験。その後、PR代理店にてBtoB・BtoC企業向けのデジタルマーケティングコンサルティングや新規営業を担当。ログリー株式会社入社後は、BtoBマーケティング向けSaaSの開発やマーケティング、セールスなどを行う。現在は、これまでの経験を活かし、BtoBマーケAIエージェント「アカウントインテリジェンスツール ウルテク」の事業責任者を務めている。

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