ABM
BtoBマーケティング
Buying Group Marketing
インテントデータ
BtoBマーケティングにおいて、CRMやMAツールを導入し連携させれば「顧客のすべてが見える」というのは幻想にすぎません。なぜなら、これらは「名乗り出た個人」の管理には長けていますが、検討プロセスの大半を占める「名乗らない検討メンバー(Buying Group)」の動きを捉えきれないからです。本記事では、この死角を埋めるためにデータを「匿名(無視)」「企業単位」「個人単位」の3層で捉え直し、営業成果につなげるための実践的なフレームワークを解説します。

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目次
MA(マーケティングオートメーション)とCRM(顧客関係管理システム)を導入し、データ連携も完了した。これで顧客の動きは手に取るようにわかるはずだ。そう意気込んで運用を始めたものの、現場では「なぜか商談が決まらない」「突然失注する」といった事象がなくならない。そんな経験はないでしょうか。
多くのBtoBマーケターや営業責任者が直面するこの壁の正体は、ツールの機能不足ではありません。私たちが無意識に前提としている「データを個人単位で紐づけて管理する」というアプローチそのものに、構造的な限界があるからです。
BtoBの購買検討は、たった一人の担当者によって行われるものではありません。裏側には必ず、上長、技術選定者、法務、セキュリティ担当といった「Buying Group(購買関与者)」が存在します。そして厄介なことに、彼らの多くは問い合わせフォームに入力することなく、匿名状態で自社サイトを回遊し、比較検討を進め、勝手に意思決定を下しています。
つまり、CRMやMAで「名前がわかっているリード」だけを一生懸命追いかけても、それは氷山の一角を見ているにすぎないのです。水面下にある巨大な「検討の本体」を見逃したままでは、適切なタイミングで適切な手を打つことはできません。
本稿では、この見えていない領域をどのように可視化し、営業アクションに結びつけるかについて掘り下げます。鍵となるのは、データをすべて個人に紐づけようとする無理な努力をやめ、「企業単位」という中間層を設けるという発想の転換です。
CRMとMAの間にある「溝」を埋め、勘や経験に頼らない「根拠あるアプローチ」を実現するための、3層データモデルと運用フレームワークについて解説していきます。
解決のフレームワーク
まず、私たちが普段依存しているツールの特性と、BtoB特有の購買プロセスのズレについて整理しておきましょう。ここを直視しない限り、どんなに高価なツールを導入しても問題は解決しません。
MAの本質的な価値は、特定のアクション(メールの開封、フォーム入力、資料ダウンロードなど)をトリガーにして、その行動を「個人」に紐づける点にあります。Aさんが資料を落とした、Aさんがメールを見た、という粒度での管理です。
一方でCRMは、商談の進捗、見積もりの提示、過去の対応履歴といった「営業プロセスの結果」を蓄積することに特化しています。
ここでよくある誤解が、「MAとCRMをつなげば、検討の入り口から成約まで一直線に見えるはずだ」という期待です。しかし、現実はそう単純ではありません。行動が個人に紐づくのは、あくまで「何かしらのイベント(コンバージョン)」が発生した一部の人に限られます。
BtoBの検討期間は数ヶ月から年単位に及ぶことも珍しくありません。その長い期間のなかで、個人が特定できるタイミングはごくわずかです。その間、CRMやMAの画面上では「動きなし」と判定されていても、実際には裏側で激しい検討が行われている。このギャップこそが、BtoBマーケティングにおける最大の難所なのです。
ここで、あるBtoB企業のマーケティング現場で実際に起きがちな、ひとつのストーリーをご紹介します。
SaaSベンダーでマーケティングを担当しているチームがいました。彼らはMAツールを駆使し、リードのスコアリングを徹底していました。ある日、大手製造業の技術担当である「佐藤さん(仮名)」がホワイトペーパーをダウンロードしました。その後も佐藤さんは定期的にメルマガを開封し、製品ページを閲覧しています。スコアは上昇し、インサイドセールスは「今がチャンスです!」と勇んでアプローチをかけました。
しかし、電話口の佐藤さんの反応は鈍いものでした。「ああ、勉強のために見ていただけなので」とかわされ、アポイントにはつながりません。チームは「まだ時期尚早だったか」と判断し、追客リストの後回しにしました。
それから2週間後、衝撃的な事実が判明します。その大手製造業が、競合他社の製品を導入したというプレスリリースが出たのです。
何が起きていたのでしょうか。実は、佐藤さんはあくまで情報収集役にすぎませんでした。裏で決裁権を持っていたのは、部長の「田中さん(仮名)」でした。田中さんは個人情報を入力するのを嫌い、匿名のままサイトを訪れ、「料金ページ」や「導入事例」、「セキュリティ要件」を念入りにチェックしていました。そして、競合他社のサイトと比較し、自社の要件に合うのは競合だと判断していたのです。
CRMやMAには、佐藤さんのログしかありません。田中さんの動きは「名無し」のアクセスとして処理され、誰の目にも留まりませんでした。もし、マーケティングチームが「この企業から、佐藤さん以外の人も頻繁にアクセスしている」という事実に気づけていたら、結果は違っていたかもしれません。
これが、BtoBにおいて「個人」だけを追いかけることの限界であり、死角です。私たちは「見えている人」に固執するあまり、「本当に検討を進めている本体」を見落としてしまうのです。

では、どうすればこの死角をなくせるのでしょうか。解決策は、データを「すべて個人に紐づけよう」とする努力をやめることです。代わりに、データの粒度を次の3つの層に分けて管理する設計をおすすめします。
まず割り切りが必要なのがこの層です。Webサイトへのアクセスには、IPアドレスから企業が特定できないものや、ISP(プロバイダ)経由のアクセスが一定数含まれます。特にリモートワークが普及した現在、自宅の回線からアクセスする社員の動きを企業単位で捕捉するのは困難な場合があります。
ここを技術的に追いかけ回そうとすると、プライバシーの問題に抵触したり、データ基盤の設計が複雑化して破綻したりします。「見えないものは見えない」と割り切り、全体のアクセス数の母数として捉える程度に留めるのが賢明です。
ここが本記事の核となる部分です。個人名はわからないけれど、IPアドレスなどのシグナルから「どの企業からのアクセスか」まではわかる層です。
具体的には、企業IPデータベースを活用し、匿名のアクセスログを社名に変換します。これにより、「誰が見ているか」はわからなくても、「株式会社〇〇の誰かが、料金ページを3回見ている」という事実は掴めます。
Buying Groupの動きは、個人の行動としてはバラバラでも、企業単位で束ねるとひとつの大きな文脈として浮かび上がってきます。先ほどの失敗例で言えば、佐藤さんの個人ログだけでなく、田中さんを含む「その会社からの総アクセス」を捉えるのがこの層です。この第2層こそが、CRM/MAでは抜け落ちていた「検討の途中経過」を埋めるピースになります。

最後に、フォーム入力や名刺交換、メールのクリックなどを通じて、明確に個人が特定できた層です。ここで初めて、従来のMAやCRMが本領を発揮します。
重要なのは、いきなり第3層を目指すのではなく、第2層(企業単位)の情報をベースにしながら、タイミングを見て第3層(個人特定)へと誘う、あるいは第3層に至る前でも第2層の情報を使ってアプローチをかける、という多段構えの戦術をとることです。

第2層(企業単位)のデータを活用することで、営業やマーケティングのアクションはどう変わるのでしょうか。ここで、データの活用価値を整理するためのフレームワークとして「企業・温度・理由・打ち手」の4ステップを用いて解説します。
従来のCRM活用では、データベースにあるのは「名刺交換した人」や「問い合わせした人」のリストでした。しかし、企業単位のデータを統合すると、CRMの見え方が変わります。
CRM上では半年以上コンタクトがない「休眠顧客」に見えていても、匿名データと照合すると、実は先週から急激にサイトへのアクセスが増えていることがわかるかもしれません。名乗った個人のログだけを見ていると「静寂」に見えるものが、企業単位のログを重ねることで「ざわめき」として感知できるようになります。
リードの「温度感(ホット度合い)」を測る際、これまでは「メールを開封したか」「リンクをクリックしたか」といった個人の反応に依存していました。しかし、決裁者は忙しく、メルマガなどいちいち開かないことも多いものです。
企業単位のトラッキングを行えば、個人のメール反応がゼロでも、「会社全体として、特定の製品ページや事例ページを繰り返し閲覧している」という事実から温度感を判定できます。担当者が沈黙していても、組織として検討が進んでいるサインを見逃さずに済みます。これにより、アプローチのタイミングを競合よりも一段早く設定することが可能になります。
営業担当者が最も嫌がるのは、理由のない「とりあえず電話して」という指示です。しかし、企業単位のデータがあれば、アプローチの「理由」を明確に言語化できます。
このように、「どのページを見たか」「どんな関心を持っているか」というファクト(事実)に基づいて仮説を立てられます。営業連携や施策設計が、「勘」や「数撃ちゃ当たる」の世界から、「明確な理由に基づいた提案」へと進化します。

ここが最大のメリットです。CRM/MAだけに頼ると、相手がフォーム入力してくれるまで「待ち」の状態が続きます。しかし、企業単位の匿名シグナルがあれば、個人が特定される前でも先手を打つことができます。
このように、相手が名乗り出るのを待つのではなく、こちらの存在を認識させ、検討を有利に進めるための「次の一手」を能動的に繰り出すことができるのです。

ここまで、企業単位データの有用性を強調してきましたが、もちろんこれが「魔法の杖」であるわけではありません。導入を検討する際には、次のような懸念や限界についても理解しておく誠実さが必要です。
コロナ禍以降、リモートワークが定着したことで、企業IPによる識別の精度には一定の限界が生じています。自宅のWi-Fiや個人のモバイル回線からのアクセスは、企業名と紐付けることができません。
ツールベンダーによっては、独自の技術でこの壁を越えようとしているところもありますが、捕捉率は100%にはなりません。「全アクセスの半分程度が企業として可視化できれば御の字」くらいの現実的な期待値を持って運用するのが、挫折しないコツです。見えないデータに執着するより、見えているデータだけで十分なアクションが打てることに目を向けましょう。
「御社、昨日ウチの料金ページ見てましたよね?」といきなり営業電話がかかってきたら、顧客はどう感じるでしょうか。多くの人は「監視されているようで気持ち悪い(Creepy)」と感じるはずです。
データを持っていることと、それをそのまま伝えることは別問題です。営業のアプローチでは、「Webを見ていること」を直接指摘するのではなく、「最近、御社のような業界では〇〇という課題が増えていますが」と、あくまでトレンドや仮説として話題を振るのがマナーであり、テクニックです。データの使い手には、デリカシーとリテラシーが求められます。
「よし、すべてのデータを統合しよう」と意気込み、高額なCDP(カスタマーデータプラットフォーム)を導入して壮大なプロジェクトを立ち上げる企業がありますが、これは往々にして失敗します。データ連携の定義や基盤構築だけで数年かかり、その頃には市場環境が変わっているからです。
最初は、MAツールのログと企業IP解析ツールのログをCSVで突き合わせるだけでも十分な価値が出ます。「小さく始めて、成果が出たら仕組み化する」というアジャイルな姿勢が、この領域では特に重要です。
BtoBマーケティングの難しさは、検討プロセスが長く、複数人が関わり、その多くが匿名で進行するという点にあります。CRMとMAだけを見て「個人」を追いかけていると、この複雑なBuying Groupの動きを取りこぼし、知らない間に競合に負けてしまうリスクがあります。
この問題を解決する鍵は、データを「匿名(見えない)」「企業単位」「個人単位」の3層で設計することです。特に第2層である「企業単位のデータ」は、CRM上の静寂と実際の検討状況の乖離を埋める橋渡し役となります。
これらを実践することで、マーケティングと営業は「点」ではなく「面」で顧客を捉えられるようになります。ツールに使われるのではなく、ツールの限界を知った上で、その隙間を埋める知恵こそが、これからのBtoBマーケターに求められるスキルではないでしょうか。
Q: 企業IPの特定にはどのようなツールが必要ですか? A: 一般的には、Googleアナリティクスだけでは不十分です。「BowNow」「Forcas」「Sales Marker」などのBtoB向けMAツールや、ABM(アカウントベースドマーケティング)ツール、あるいはIPアドレスと企業データベースを紐付ける専用の解析タグを導入する必要があります。
Q: 中小企業をターゲットにしていますが、効果はありますか? A: 固定IPアドレスを持たない小規模事業者や、ISP経由でアクセスしている企業の場合、識別率は下がります。ターゲットが大企業や中堅企業中心であれば効果は高いですが、SOHOや小規模企業がメインの場合は、費用対効果を慎重にシミュレーションする必要があります。
Q: 営業担当にデータを渡しても、うまく活用してくれません。 A: 「ログを全部渡す」のは悪手です。情報過多で営業が混乱します。「特定の重要ページ(料金や事例)を見た企業」や「過去に失注したが再訪している企業」など、アクションの条件を絞り込み、「なぜ今電話すべきか」というトークスクリプトとセットで渡すのが定着のコツです。
Q: 個人情報保護法やGDPRとの兼ね合いは大丈夫ですか? A: 基本的に、公開されているIPアドレスから「企業名」を特定することは、個人情報の取得には当たらないと解釈されるケースが一般的です(個人を特定しないため)。ただし、そのデータと既存の個人情報を紐付けてプロファイリングを行う場合は、プライバシーポリシーでの明示や同意取得が必要になる場合があります。各ツールの法務規約や自社のコンプライアンス基準を必ず確認してください。
Q: Webサイトのトラフィックが少なくても導入すべきですか? A: トラフィックが極端に少ない場合(月間数千PV以下など)、企業特定できてもアプローチ母数が確保できず、ツールのコストが回収できない可能性があります。まずはSEOや広告で一定の集客(母数)を作ることが先決です。その上で、「来ているけれどコンバージョンしない層」が目立ってきた段階での導入をおすすめします。
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