BtoBマーケティング
RevOps
インサイドセールス
マーケティング、営業、CSの分業が進む一方で、部門間の対立やデータのサイロ化が組織の成長を阻む要因となっています。本記事では、これらのギャップを埋め、売上生成プロセスを統合する「RevOps(レベニューオペレーション)」について解説します。単なる調整役ではなく、共通言語を作る「翻訳者」としての定義、必要なスキル、育成法、実践的なツール活用まで、事業成長を再現可能にするための具体的な道筋を提示します。

目次
近年のBtoBビジネス、特にSaaSやサブスクリプションモデルの普及に伴い、「The Model」に代表されるような分業体制は当たり前のものになりました。マーケティングは市場認知とリード獲得を担い、インサイドセールスが商談を創出し、フィールドセールスが受注し、カスタマーサクセスが継続とアップセルを担う。専門性を高め、効率を最大化するうえで、これは非常に合理的なシステムです。
しかし、この合理的な分業システムには、組織が拡大するにつれて顕在化する副作用があります。それは、各部門がそれぞれのKPI(重要業績評価指標)を正しく追えば追うほど、組織全体としてはバラバラになっていくというパラドックスです。
たとえば、あるBtoB企業の会議室で実際に起きがちな光景を思い浮かべてみてください。
マーケティング部門は言います。「今月はMQL(有望リード)の目標を120%達成しました。獲得単価も下がっており、非常に順調です」。彼らのミッションはリードの数を最大化し、獲得効率を最適化することだからです。
一方で、営業部門は浮かない顔をしています。「リードは来ていますが、質が低くて商談になりません。架電しても繋がらないリストばかりで、現場は疲弊しています。もっと確度の高い商談が欲しいのです」。彼らのミッションは、今月、今四半期の受注数字を作ることだからです。
そしてカスタマーサクセス部門は、さらに別の視点を持っています。「そもそも、機能要件が合わない顧客に無理やり売っていませんか? 導入後のオンボーディングでつまずくケースが増えており、解約リスクが高まっています」。彼らのミッションは、顧客の成功と契約の継続だからです。
マーケティングは「量」を、営業は「短期的な質」を、カスタマーサクセスは「長期的な適合性」を求めています。全員がそれぞれの立場で正しいことを言っています。誰かがサボっているわけではありません。しかし、全員が正しいことをしているのに、会社全体の売上成長は鈍化していく。これが「情報のサイロ化」と「部門間の対立」の正体です。
この矛盾を解きほぐすためには、部門ごとの正義を主張し合うのではなく、部門の間に立って意味を通じ合わせる「翻訳」の機能が必要になります。

「データドリブン」という言葉が浸透して久しい今、多くの企業はすでに膨大なデータを持っています。マーケティングオートメーション(MA)、営業支援システム(SFA/CRM)、アクセス解析ツール、広告管理画面、商談の議事録、カスタマーサクセスのヘルススコアなど、ツールの中には数字があふれています。
しかし、ここで問題になるのは「データがないこと」ではなく、「データの意味が揃っていないこと」です。
ある成長中のIT企業で実際にあった話です。経営陣が「来期の成長戦略を立てたいから、マーケティングから受注までのコンバージョン率を出してくれ」と指示しました。ところが、出てきた数字を見て経営会議は紛糾します。マーケティング部門が出してきた「商談化率」と、営業部門が出してきた「商談化率」が、倍以上も違っていたのです。
原因を掘り下げてみると、マーケティング部門は「インサイドセールスがアポイントを取得した時点」を「商談」と定義していました。一方で営業部門は「フィールドセールスが訪問し、予算や決裁権(BANT条件)を確認できた案件」だけを「商談」としてSFAに入力していました。
これでは、どんなに精緻なダッシュボードを作っても、それはただの「誤差の集合体」でしかありません。
つまり、ツールの中に「数値」はたくさんあるのに、ビジネスの状態を正しく把握し、意思決定するための「会計基準」が存在していないのです。財務会計にルールがあるように、パイプライン(見込み案件)にも、部門横断で通用する共通の会計基準が必要です。これを「パイプライン会計」と呼ぶこともあります。
ここで改めて、RevOpsという役割を一文で定義します。
RevOpsとは、リード獲得から受注、そして継続収益に至るまでの「売上生成プロセス(Lead → Pipeline → Revenue)」を、データと運用の設計によって“再現可能”にする役割です。
そして、その業務の中核にあるのは「翻訳」です。

この三つの異なる言語を行き来し、経営者の見たい景色をデータの言葉に翻訳してダッシュボードに落とし込み、現場の行動データを経営判断できる指標へと翻訳して戻す。この翻訳者がいない組織は、いつまでたっても「なんとなく頑張った」「たぶんいけると思う」という感想戦を続けることになります。
RevOpsは、その感想戦を終わらせ、ファクトに基づいた成長のサイクルを回すための機能なのです。

RevOpsという職種は新しいため、明確な定義が定まっていないことも多いですが、成果物から逆算すると必要なスキルセットが見えてきます。「何ができる人か」という観点で、大きく3つの要素に分解できます。
RevOpsにおけるデータスキルとは、高度なSQLが書けることや、Pythonで機械学習モデルを作れることではありません(もちろん、できれば素晴らしいですが、必須ではありません)。それよりもはるかに重要なのは、ビジネスの文脈に合わせて「データの定義を揃える設計力」です。
先ほどの事例のように、同じ「商談」という言葉一つとっても、人によって解釈が異なります。RevOps担当者は、まず社内の辞書を作るところから始めなければなりません。
「MQLとは、資料請求をした人のことではなく、資料請求後にインサイドセールスが架電し、担当者と通話ができた状態を指すことにしよう」 「商談化とは、フィールドセールスが案件の金額規模と導入時期を確認し、SFAのフェーズを『提案』に進めた瞬間と定義しよう」
このように、MQL、SQL、商談、受注、失注といった言葉の定義と判定条件を一つひとつ明確にし、ツール上の設定と一致させます。また、マーケティングは「リード(個人)」単位でデータを見がちですが、営業は「アカウント(企業)」単位で動きます。この単位の違いをどう接続するかを設計するのも重要な仕事です。
成果物としては、以下のようなものが挙げられます。
ここでのデータリテラシーとは、「数字が読める」ことではなく、「関係者全員が、数字を“同じ意味”で読める状態を作る力」を指します。
次に欠かせないのが、現場の泥臭いリアリティと、経営的な戦略論の両方を理解していることです。
マーケティングのフレームワークや戦略論に詳しいだけでは、現場は動きません。逆に、営業現場の経験があるだけでも、全体最適の視点は持てません。なぜなら、実際の売上は綺麗なロジック通りには動かないからです。
RevOpsは、こうした現場の「泥臭い変数」を肌感覚として理解したうえで、それをデータやオペレーションの設計に落とし込む必要があります。「現場を知らない人が作った使いにくいSFA」が生まれるのは、このビジネス理解が欠けているためです。机上の空論ではない、現場が納得して使える仕組みを作る力が求められます。
最後に、そしておそらく最も重要かつ困難なスキルが、政治力です。ここで言う政治力とは、社内政治をうまく立ち回ることや根回しがうまいことではありません。「組織全体が勝つためのルールに、各部門長を合意させる力」のことです。
マーケティング部長はリード数を追いたいし、営業部長は受注額を追いたい。それぞれの部門長が自分たちの評価指標を守ろうとするのは、組織人として当然の行動です。しかし、そのままでは全体最適は実現しません。
RevOpsは、部門間の議論の質を変える役割を担います。「マーケティングのリードが悪い」「営業のクロージングが弱い」といった「誰が悪いか」の議論から、「プロセスのどこが詰まっているか」「どの条件を改善すればスループットが上がるか」という「構造の議論」へと視点を移させます。
そのために、会話の軸を共通化します。
こうした合意形成ができると、組織の会議は急に静かになります。それは議論が止まるからではなく、論点が揃い、やるべきことが明確になるからです。利害が対立しがちな部門間に入り、ファクトを武器にして共通のゴールを握らせる。これがRevOpsに求められる真の政治力です。
ここまでRevOpsの理想像を語ってきましたが、読者の皆さんの頭の中にはいくつかの懸念や反論が浮かんでいるかもしれません。現場の実情はそう単純ではない、という声も聞こえてきそうです。ここでは、よくある3つの懸念に対して、現実的な視点から回答を提示します。
これは最も多い懸念です。特に営業現場は、SFAへの入力業務を「余計な事務作業」と感じがちですし、自分の行動を細かく監視されることに対して生理的な拒否感を覚える人もいます。
この壁を乗り越える鍵は、RevOpsの目的が「管理」ではなく「現場の支援」であることを、具体的なメリットとして提示できるかどうかです。
たとえば、「失注理由を正しく入力してください」とだけ言っても現場は動きません。しかし、「失注理由を正しく入力すれば、来月からは勝率の低い無駄な商談に時間を使わなくて済むように、マーケティング側でリードの選別基準を変えます。そうすれば、あなたは勝てる商談だけに集中できます」と伝えたらどうでしょうか。
RevOpsの導入は、現場から情報を吸い上げるだけでなく、現場に「勝ちやすさ」や「時間の余裕」を還元するサイクルを作ることで初めて定着します。
これも非常によくある失敗パターンです。高価なRevOpsツールや最新のBIツールを導入し、綺麗なダッシュボードを作って満足してしまうケースです。しかし、どんなに優れたツールも、そこに流れるデータの定義が揃っていなければ、ただの「高機能なゴミ箱」になりかねません。
ツールはあくまで、設計されたオペレーションを回すための「道具」に過ぎません。まずはスプレッドシートや既存のSFAの標準機能レベルで構わないので、「定義を揃える」「入力ルールを決める」「会議でその数字を見る」という運用を回し始めることが先決です。ツールへの投資は、その運用が手動では回らなくなった段階で検討すれば十分です。
多くの中小・中堅企業にとって、売上に直接貢献しない(ように見える)RevOpsという職種に、専任の人件費を割くのは難しい決断かもしれません。
結論から言えば、最初から専任者を置く必要はありません。まずは「RevOps的な機能」を組織にインストールすることから始めましょう。経営企画、マーケティングマネージャー、あるいは営業企画の誰かが、業務の20%〜30%を使って「部門間のデータの整合性を取る」「共通の会議体を設計する」といった役割を担うことでも、十分に効果は出始めます。
重要なのは「誰がやるか」という肩書きではなく、「部門間のサイロを壊し、全体最適の視点でプロセスを設計する責任者」を明確にすることです。
「RevOpsを採用したい」と思っても、日本国内で経験豊富なRevOps人材を見つけるのは至難の業です。現実的な解は、転職市場で探すよりも、社内の有望な人材を越境させて育てることです。ここでは、既存の職種からRevOpsへ近づくための具体的なルートを示します。
マーケティング出身者がRevOpsを目指す場合の最短ルートは、インサイドセールスの現場を深く知ることです。可能であれば、短期間でも実際に架電業務を経験するか、インサイドセールスのマネジメントに関わることを推奨します。
ここで学ぶべきポイントは、業務の手伝いではなく「メカニズムの理解」です。
この肌感覚を持つことで、マーケターの視点は変わります。「今月のMQL件数をどう達成するか」という視点から、「どうすれば後の工程が楽になるリードを渡せるか」「パイプライン総額を増やすにはどこをチューニングすべきか」という全体最適の視点へとシフトします。これがRevOpsへの第一歩です。
営業出身者がRevOpsへ近づくためのルートは、データの扱い方と運用の設計力を身につけることです。「データ分析」といっても、高度な統計解析を学ぶ必要はありません。必要なのは、自分たちの活動を「計測可能な状態」にするための設計力です。
こうした動きができる営業担当者は、個人の数字を作るだけでなく、チーム全体の「売れる仕組み」を作れる人材になります。RevOpsはまさに、その延長線上に位置するキャリアです。
これからのキャリアに悩むBtoB領域の中堅層にとって、RevOpsは非常に有力な、そして「攻め」の選択肢です。
まず、専門性の希少さがあります。データリテラシー、業務プロセス設計、そして部門間調整という三つのスキルを高いレベルで統合している人材は極めて稀です。 次に、影響範囲の大きさです。一部門の施策だけでなく、企業の売上構造そのものを設計し、経営の意思決定に直結する仕事ができるため、ビジネスパーソンとしての視座が一段上がります。 そして、将来性です。AIや自動化が進むほど、単なる作業者ではなく、「定義を揃える人」「運用に落とし込む人」の価値は相対的に上がっていきます。
RevOpsへの転身は、単なる職種の追加ではなく、事業成長そのものをエンジニアリングするレイヤーへの昇格と言えるでしょう。
ここで一つ、大事な前提を置きます。RevOpsという機能は、ツールを導入したからといって自動的に出来上がるものではありません。あくまで「設計図(戦略と定義)」を描くのは人間です。
しかし、設計図があっても、それを実行するための「道具」がなければ現場は回りません。RevOpsの仕事は、一度翻訳して終わりではなく、その翻訳プロセスを継続的に運用し続けることです。すべてを人の頭の中だけで処理しようとすると、業務は属人化し、担当者が変わった瞬間に崩壊してしまいます。だからこそ、翻訳を仕組みとして残し、自動化するためのツールが必要になります。
RevOpsの視点からツールを選ぶ際、機能の多さよりも重視すべき条件があります。
つまり、分析やレポーティングのためのツールではなく、「意思決定と実行」を加速させるためのツールであるかどうかが選定の基準になります。
この文脈において、RevOpsの強力な武器となり得るツールの一つとして「ウルテク」を紹介します。
なぜウルテクがRevOpsに向いているのか。理由はシンプルで、RevOpsが最も欲している「翻訳素材」を集めやすく、使いやすい形に加工してくれるからです。
ウルテクは、Webサイト上の行動データなどを活用し、まだ問い合わせに至っていない「匿名の検討行動」を含めて、企業単位(アカウント単位)で可視化することができます。これは、マーケティングが検知した「兆し」を、営業が理解できる「ターゲット企業」という言葉に翻訳する機能だと言えます。
また、単に「閲覧があった」という事実を伝えるだけでなく、その行動の熱量や内容に基づいて「優先度」を可視化できます。これにより、「マーケティングが温めたリードを、営業が適切なタイミングで刈り取る」という連携が、個人の勘ではなくデータに基づいて行えるようになります。まさに部門間の共通言語(“いま誰に何をするか”)を作るためのインフラとして機能するのです。
導入の手順よりも、RevOpsとして「翻訳システムが回り始めている状態」を描くと、以下のようになります。

まず、自社にとって重要なターゲット企業群(重要アカウント)の行動シグナルが、ウルテクによって可視化されます。「どの企業が、どの製品ページを熱心に見ているか」が誰の目にも明らかになります。
次に、その行動の強さに応じて、アプローチの優先順位が自動的に揃います。「このシグナルが出たら、営業は3日以内にアプローチする」「まだ検討初期の企業には、マーケティングが事例コンテンツを配信する」といった役割分担が、共通のデータを見ながら自然と決まります。
そして、その営業活動やマーケティング施策の結果がどうだったのかを、再びパイプラインのデータとして戻し、施策の精度を高めていきます。
ここまでサイクルが回り始めると、定例会議の論点が変わります。「リードの質が悪い」「営業が追っていない」という責任の押し付け合いではなく、「この条件のアカウントは商談化速度が速い」「この段階で失注しやすいから、コンテンツを補強しよう」といった、建設的な議論ができるようになります。これこそが、RevOpsが目指す勝ち筋です。
Sales Opsは主に「営業部門の効率化と最適化」に焦点を当てますが、RevOpsは「マーケティング・営業・カスタマーサクセスの全部門」を横断して、売上(Revenue)プロセス全体を最適化します。部分最適ではなく、顧客ライフサイクル全体を通じた全体最適を目指す点が大きな違いです。
はい、可能です。初期段階では、経営企画や営業企画、あるいはマーケティングマネージャーがRevOpsの機能を兼務するケースが一般的です。重要なのは「誰がやるか」よりも、「部門間の定義を揃え、データを統合する責任者」を明確にすることです。まずはプロジェクトベースで始めることをお勧めします。
「ツールを導入すれば解決する」と考えることです。ツールはあくまで手段であり、その前段階である「言葉の定義(MQLや商談の定義など)」や「合意形成」ができていなければ、ツールは機能しません。また、現場へのメリット(入力の手間削減や受注率向上など)を提示できず、管理強化と受け取られて反発を招くケースも失敗の典型例です。
ここまで、RevOpsの役割と実装について見てきました。
RevOpsは、マーケティングと営業とカスタマーサクセスの間に立つ、単なる調整役や便利屋ではありません。その本質は、組織の売上生成メカニズムを、
事業成長のエンジニアです。
もし、あなたの組織が「会議は多いのに、判断が遅い」「高価なツールはあるのに、売上の再現性が低い」「部門ごとに正しいことをしているはずなのに、全体として伸び悩んでいる」という状態にあるなら、それはRevOpsという機能が必要とされているサインです。
RevOpsを始める最初の一歩は、新しい人材を採用することでも、高価なツールを入れることでもありません。まずは関係者が集まり、「私たちにとっての『商談』とは何か?」「どうなれば『成功』なのか?」という定義を話し合い、共通言語を作ると決めることです。
その翻訳作業が始まった瞬間から、組織は静かに、しかし確実に強くなっていきます。
ウルテクについて、もっと詳しく知りたい方へ