GTM
The Model
【記事概要】 「戦略なき組織化」に陥らないために。GTMとThe Modelの接続方法
BtoBマーケティングや事業開発において混同されがちな「GTM(Go-to-Market)」と「The Model(ザ・モデル)」。本稿では、両者を「どちらかを選ぶもの」ではなく、事業成長の両輪として機能させるためのロジックを解説します。
GTMを「市場を攻略するための設計図(戦略)」、The Modelを「その戦略を実行するための組織の型(戦術)」と定義し、両者の決定的な違いと相互関係を紐解きます。
本記事で学べること:

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目次
BtoBマーケティングや事業開発の現場にいると、毎日のように「The Model(ザ・モデル)」や「GTM(Go-to-Market)」という言葉が飛び交います。どちらも事業成長に欠かせない概念であることは間違いありません。しかし、この二つの違いを明確に言語化し、それぞれの役割を正しく定義できている組織は意外と少ないのが実情です。
「The Model型の組織を導入したのに、なぜか売上が伸びない」 「GTM戦略を策定したはずなのに、現場の動きが変わらない」
もしあなたの組織でこのような停滞感が漂っているなら、それはGTMとThe Modelの接続がうまくいっていないサインかもしれません。この二つは、どちらか一つがあればいいというものではなく、車の両輪のように機能して初めて事業を前に進めることができます。
本稿では、あえて教科書的な定義の羅列は避け、事業責任者や現場リーダーが明日からの意思決定に使えるロジックとして、GTMとThe Modelの関係性を紐解いていきます。
GTM(Go-to-Market)戦略を一言で表現するなら、それは「市場に出ていくための設計図」です。自社のプロダクトやサービスを、誰に、どのような価値として、どうやって届けるのか。その勝ち筋を描いた全体戦略そのものを指します。
GTM(Go-to-Market)戦略について詳しく知りたい方は以下の記事にて紹介しています。
多くの人がGTMを「マーケティングプラン」や「営業戦略」の一部だと誤解していますが、実際にはそれらを内包する上位概念です。プロダクト開発から顧客への提供、そして収益化に至るまでの一貫したストーリーと言い換えてもいいでしょう。
具体的にGTMで決定すべき要素は多岐にわたりますが、中核となるのは以下の4点です。

これをスポーツチーム、たとえばサッカークラブの運営に例えてみましょう。「どのリーグで戦うのか」「攻撃的なスタイルでいくのか、堅守速攻でいくのか」「どのような選手を補強するのか」。これらクラブとしての基本方針やゲームプランを決めるのがGTMです。
GTMが曖昧なままだと、どんなに優秀な選手(社員)を集めても、チームはバラバラの方向に走り出してしまいます。
一方で、The Modelは「組織の分業モデル」であり、GTMを実行するための「型」です。元々はSalesforce社が提唱し、日本でもBtoB営業組織のスタンダードとして定着しました。
The Modelの最大の特徴は、顧客の購買プロセスに合わせて、営業・マーケティング活動を以下の4つのプロセスに分業化し、一連の流れとして数値管理することにあります。

The Modelでは、これらの各部門が「リード数」「商談化数」「受注数」「解約率」といったKPI(重要業績評価指標)を持ち、バトンパスのように顧客情報をリレーしていきます。どこでボトルネックが発生しているかを可視化し、科学的に売上を最大化するための仕組みです。
先ほどのサッカーの例で言えば、The Modelは「フォーメーションと役割分担」にあたります。「お前はフォワードだから点を取れ」「お前はディフェンダーだからゴールを守れ」「ボールを奪ったらすぐにミッドフィルダーにパスを出せ」。このように、フィールド上の誰がどのような動きをするのか、そのルールと役割を明確にするのがThe Modelです。

ここまでの説明で、GTMとThe Modelの違いがおおよそ掴めてきたのではないでしょうか。両者の決定的な違いは、見ている「視座」と「対象範囲」にあります。
GTMの視線は常に「市場(外)」に向いています。競合はどう動いているか、顧客は何に困っているか、市場のトレンドはどこにあるか。外部環境との関係性の中で、自社がどう立ち振る舞うかを決めるのがGTMです。経営陣や事業責任者、プロダクト責任者が主導して策定するケースが多いのはそのためです。
対して、The Modelの視線は主に「組織(内)」に向いています。リードが商談に転換する率は適正か、インサイドセールスの架電数は足りているか、営業とCSの情報連携はスムーズか。内部のプロセスを磨き込み、効率化することに主眼が置かれます。こちらは営業本部長や各部門のマネージャーが主導して運用します。
これを一言で整理すると、以下のようになります。
GTMは「どの戦場で、どう勝つか」という戦略。 The Modelは「その戦い方を、社内でどう分業して回すか」という戦術・組織論。

よくある誤解に、「GTMか、The Modelか」という二者択一の議論がありますが、これはナンセンスです。順序としては、まずGTMがあり、その実行手段の一つとしてThe Modelが存在します。
まずGTMで「誰に・何を・どう売るか」を決める。 その戦略に最適な形として、The Model型の分業体制を敷く。
たとえば、GTMで「エンタープライズ(大企業)向けの超高単価商材を、特定のアカウントに深く入り込んで売る」という戦略(ABM:アカウントベースドマーケティング)を決めたとします。この場合、大量のリードをさばくことに特化した典型的なThe Modelの体制は適さないかもしれません。マーケティングとインサイドセールスが一体となってターゲット企業を攻略する、変則的なチーム編成が必要になるでしょう。
逆に、「中小企業向けに低単価のSaaSを広く薄く販売する」というGTMであれば、Webマーケティングで大量に集客し、インサイドセールスが効率よくさばいていくThe Modelの型が完璧にハマります。
つまり、GTMという戦略に合わせて、The Modelという器を柔軟にチューニングする必要があるのです。
ここで、GTMとThe Modelの関係性をより深く理解するために、あるSaaS企業の失敗事例を紹介しましょう。これは私が実際に相談を受けた案件をベースにした、架空のストーリーです。
中堅向けの人事労務SaaSを提供するX社。彼らは事業拡大のために、流行りのThe Model型組織を導入しました。Salesforceを導入し、マーケティング、インサイドセールス(IS)、フィールドセールス(FS)、カスタマーサクセス(CS)の部門を立ち上げ、KPIダッシュボードも完璧に整備しました。
表面的には、組織は美しく機能しているように見えました。マーケティングチームは目標リード数を達成し、ISチームはそこから目標通りの件数のアポイントをFSに供給しています。各部門の定例会議では「KPI達成率」の緑色の数字が並び、マネージャーたちは満足げでした。
しかし、肝心の「売上」だけが、目標に届かないのです。そして、次第に解約率(チャーンレート)も悪化し始めました。
現場の声を聞いて回ると、不穏な空気が漂っていました。
FS担当者はこう嘆きます。「ISから送られてくるアポは多いですが、質が悪すぎます。『とりあえず話を聞くだけ』という顧客ばかりで、受注につながりません。これなら自分でテレアポしたほうがマシです」
一方、IS担当者は反論します。「マーケから渡されるリードが、そもそもターゲットから外れているんです。従業員数10名以下の企業や、個人事業主ばかり。それでも必死にアポにして渡しているのに、FSが決めきれないのをこちらのせいにされても困ります」
そしてマーケティング担当者は疲弊していました。「上からは『とにかくリード数を増やせ』と言われるので、Amazonギフト券を配るキャンペーンで数を稼ぐしかありませんでした。質の議論なんてしている余裕はないんです」
最後にCS担当者が、諦めたような顔で言いました。「受注しても、機能が合わないと言ってすぐに解約されます。そもそも、ウチのサービスが解決できる課題を持っていないお客さんが入ってきてしまっているんです」

X社の失敗の原因は明白でした。「The Modelという箱」だけを用意し、「GTM(中身)」のアップデートを怠っていたのです。
X社は当初、中堅企業をターゲットにしていましたが、市場環境の変化により、本来は大企業向けの高機能プランへシフトすべきタイミングに来ていました。しかし、GTMの再定義を行わないまま組織だけを分業化したため、マーケティングチームは「集めやすい(が、ターゲットではない)リード」を集め、ISはそれを右から左へ流すだけのベルトコンベア作業に終始してしまったのです。
各部門が自部署のKPI(リード数やアポ数)だけを追求する「部分最適」に陥り、会社全体としての「誰にどんな価値を届けるか」という目的を見失っていました。
これが、GTMなきThe Modelの末路です。どれほど精緻な分業体制を敷いても、その上流にある戦略が間違っていれば、組織は猛スピードで間違った方向へ進んでしまいます。X社はその後、全社のリーダーを集めてGTMを再策定し、「狙うべき顧客」を再定義することで、リード数は一時的に減ったものの、受注率とLTV(顧客生涯価値)を大幅に改善することに成功しました。
ここまでGTMとThe Modelの理想的な関係性を述べてきましたが、現場からは「そうは言っても現実は難しい」という声が聞こえてきそうです。ここでは、よくある3つの懸念や反論に対して、実務的な視点から回答を提示します。
特にスタートアップや新規事業の立ち上げ期において、この悩みは深刻です。完璧な戦略ができるまで動かないわけにはいきません。
結論から言えば、GTMは「仮説」で構いません。むしろ、初期段階のGTMは間違っていることが前提です。重要なのは、完璧な資料を作ることではなく、「現時点では、このターゲットにこの価値をぶつける」という合意をチーム内で形成することです。
A4用紙1枚、箇条書きで構いません。「誰に」「何を」「どう売るか」。これだけを明文化して、The Modelの各チームに共有してください。そして、実際に動いてみて違和感があれば、すぐにGTMを修正する。この「GTMの高速回転」こそが、走りながら考えるということです。何も決めずに走るのは、ただの迷走です。
X社の事例のように、The Modelは下手をすると「KPIの押し付け合い」や「部門間の断絶」を生みます。これはThe Modelというフレームワーク自体の欠点というよりは、運用上の副作用です。
これを防ぐには、各部門のKPIに「質」の指標や「後工程」の指標を組み込むことが有効です。 たとえば、マーケティングチームのKPIを単なる「リード数」ではなく、「ISが有効と判定したリード数」にする。ISのKPIを「アポ数」ではなく、「FSが受注した案件の創出額」にする。CSからのフィードバックを、マーケティングのターゲット選定に反映させる会議体を設ける。
「分業」はあくまで手段です。目的は「協業」による顧客価値の最大化であることを、リーダーが事あるごとに発信し続ける泥臭いコミュニケーションも不可欠です。
コンサルティングサービスや、カスタマイズ性の高いシステム開発などの場合、マーケからIS、FSへと単純にバトンパスをするのが難しいケースがあります。高度な専門知識を持つFSが最初から出ていかないと話にならない、といった場合です。
その場合は、無理にThe Modelの「4分割」にこだわる必要はありません。ISの役割を「アポ獲得」ではなく「市場調査とナーチャリング(育成)」に限定し、興味度合いが高まった段階ですぐに専門家(FSやコンサルタント)につなぐ、あるいはマーケティングとISを統合して一つのチームにするなど、自社の商材特性に合わせてプロセスを崩してしまって良いのです。
The Modelはあくまで「型」であり、法律ではありません。自社のGTMに合わせて、自由にカスタマイズして使い倒すのが正解です。

GTMとThe Modelは、どちらか一方が優れているというものではなく、戦略(Strategy)と実行(Execution)の関係にあります。
GTMで描いた「勝ち筋」を、The Modelという「システム」に落とし込んで実行する。そして、実行して得られた市場からのフィードバック(売れた、売れなかった、解約された)を元に、またGTMを書き換える。このサイクルを回し続けることこそが、事業成長のエンジンとなります。
最後に、あなたの組織でこの二つが正しく機能しているかを確認するための簡易チェックリストを提示します。
もし一つでも「No」があるなら、それは組織の形(The Model)を見直す前に、設計図(GTM)を見直すべきタイミングかもしれません。まずは関係部署のリーダーを集め、「私たちは誰に、どんな価値を届けようとしているのか」という問いから、対話を始めてみてはいかがでしょうか。その対話の中にこそ、次の成長へのヒントが隠されているはずです。
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