Buying Group Marketing
GTM
B2B購買が複雑化する中、1人の担当者を説得する旧来のマーケティングは限界を迎えています。本記事では、意思決定に関与する全員、つまり購買グループをターゲットとするBGM(Buying Group Marketing)の重要性を解説します。営業接触前に85パーセントの候補が絞られる現実を踏まえ、役割別の論点整理や決裁キットの設計方法、AIを活用した根拠管理の手順を詳説。停滞しがちな比較検討フェーズを突破し、成約率を高めるための新たなGTM戦略の指針を提示します。

目次
B2Bのマーケティングや営業の現場で、もっとも頭を悩ませる問題の一つが、商談の停滞ではないでしょうか。担当者個人とは非常に良い関係が築けており、製品への評価も高い。それなのに、なぜか最終的な決裁が下りず、数ヶ月、時には半年以上の時間が過ぎてしまう。こうした停滞は、現在のB2B取引において、もはや避けられない常態となっています。
なぜこのような事態が起きるのか。その背景には、買い手側の意思決定プロセスが、一人の担当者から極めて複雑な委員会制、すなわちバイイング・グループへと変化したことがあります。一人の担当者を説得すれば売れた時代は終わり、現在は、現場、情報システム、財務、購買といった異なる役割を持つ複数の人々が、それぞれの視点で反対する理由を探しているのです。
この課題を解決するキーワードが、BGM(Buying Group Marketing)です。本ガイドでは、これからのGTM(ゴー・トゥ・マーケット)戦略において欠かせない要素となったBGMの視点を取り入れ、比較検討フェーズにおいて決裁を劇的に早めるためのコンテンツ設計のあり方を提示します。単なる製品説明の羅列ではない、意思決定を支援するための武器としてのコンテンツ、すなわち決裁キットの作り方を、AIを活用した最新の制作フローとともに解説していきましょう。
まず、本記事の核となるBGM(Buying Group Marketing)について定義しておきましょう。
BGMとは、B2Bにおける購買意思決定に関与する複数のステークホルダー、すなわちバイイング・グループ(購買グループ)全体を対象としたマーケティング手法のことです。従来のペルソナ設定が一人の理想的な担当者を深掘りしていたのに対し、BGMは組織内の合意形成プロセスそのものに焦点を当てます。
なぜ、今このBGMがGTM戦略において死活的に重要なのでしょうか。その理由は、買い手の非対面化と意思決定の多層化が同時に進んでいるからです。
多くの企業では、営業担当者が顧客と初めて顔を合わせるタイミングで、すでに選定レースの大部分が終了しています。国内の最新調査によれば、営業との初回面談の時点で、すでに購買先候補が、ほぼ決まっている、あるいは有力な候補に絞り込まれているという層が合計で85パーセントに達しています[出典:ワンマーケティング株式会社「BtoB購買プロセス白書2025」 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000013.000068653.html]。
つまり、商談が始まる前の選定フェーズにおいて、バイイング・グループ全員が納得できる材料がWeb上や共有資料の中に揃っているかどうかが、勝敗を分ける決定打になるのです。一人のファンを作るだけでは不十分であり、組織としての合意を支援するBGMの視点が、2026年のマーケティングには不可欠となっています。
決裁が遅い、あるいは止まる最大の理由は、情報量そのものの不足ではなく、合意形成に必要な論点が役割ごとに揃っていないことにあります。
国内の調査によると、取引額が上がるほどに関与人数は劇的に増加します。300万円未満の取引では関与人数は平均5.6人ですが、高価格帯になると18.3人もの人々が意思決定に加わります。
これだけ多くの人が関われば、1人が賛成しても他の17人が懸念を抱けばプロジェクトは停止します。事実、高価格帯の取引では、検討開始から契約まで半年以上の時間を費やすケースが54パーセントにものぼっています[出典:ワンマーケティング株式会社「BtoB購買プロセス白書2025」 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000013.000068653.html]。
海外の動向も同様です。Forresterのプレスリリースによれば、B2B購買の86パーセントがプロセス中に何らかの停滞(スタール)を経験しており、最終的に選んだ提供企業に対して不満を感じている買い手も81パーセントに達しています[出典:Forrester “Forrester: The State Of Business Buying, 2024” https://www.forrester.com/press-newsroom/forrester-the-state-of-business-buying-2024/]。
買い手の94パーセントは売り手に接触する前に、すでに候補リストの順位付けを終えているというデータもあります[出典:6sense “The B2B Buyer Experience Report for 2025” https://6sense.com/science-of-b2b/buyer-experience-report-2025/]。これらの数字が示しているのは、比較検討コンテンツの真の役割が、きれいに読ませることではなく、バイイング・グループ内の反対理由を一つずつ消し、次の合意に進めるための材料を渡すことに変わったという事実です。

ここで重要になるのが、ガートナーが提唱するバイヤー・イネーブルメント(Buyer Enablement)という考え方です。これは、買い手が重要な購買タスクを、より速く、より容易に完了させるための情報とツールを提供することを指します。
比較検討コンテンツを決裁短縮のために最適化するなら、発想を転換する必要があります。自社の製品がいかに素晴らしいかを説明するのをやめ、買い手が社内で決定を下すための重労働を助けることに徹するのです。
例えば、あるSaaS企業に勤めるマーケティング担当のAさんの経験を振り返ってみましょう。Aさんは、自社製品が現場の工数を50パーセント削減できることを、洗練された導入事例ページでアピールしました。現場のマネージャーは非常に喜び、すぐにでも導入したいと言ってくれました。しかし、そこから三ヶ月間、案件はピタリと止まってしまいました。
正直なところ、当時のAさんは戸惑いました。何が悪いのか分からず、ただ時間だけが過ぎていく。しかし調査を進めると、意外な事実が判明しました。現場の担当者は製品の良さを理解していましたが、情報システム部門が抱くデータの取り扱いに関する懸念を払拭できず、また財務部門を納得させるための投資対効果(ROI)の算定ロジックを持っていなかったのです。
Aさんは気づきました。自分は現場向けのコンテンツは作っていたが、バイイング・グループ全体、つまり経営や情シス、購買担当者を支援するためのバイヤー・イネーブルメントの視点が完全に欠落していたのです。この失敗から、Aさんは役割別の論点整理と、そのまま社内稟議に使える資料のパッケージ化、すなわち決裁キットの制作に着手することになります。

バイイング・グループを前提とした最短の攻略法は、同じ一つの提案内容を、それぞれの役割が納得できる言語に翻訳して揃えておくことです。
比較検討フェーズで頻出する、主要な4つの役割に対する論点のテンプレートを紹介します。
一つ目は、実務・現場担当者向けです。彼らが最も恐れているのは、導入後に運用が回らず、自分たちの仕事が増えて失敗することです。したがって、導入後の具体的な業務フローの変化や、定着のためのオンボーディング設計、よくあるつまずきポイントと回避策を提示することが、彼らの安心感に直結します。
二つ目は、情報システムやセキュリティ担当者向けです。彼らの関心事は、組織の統制を維持し、整合性を保つための客観的な証拠があるかどうかです。データの保存場所や削除権限、監査ログの仕様、API連携の方式など、仕様を淡々と、かつ正確な証拠とともに提示します。
三つ目は、経営層や予算決裁者向けです。ここでは、投資対効果(ROI)とその確実性が問われます。算定ロジックが妥当か、成功の条件は何か、段階的な導入プランでリスクを抑えられるか。そして、何よりも重要なのが、やらないことによって発生するコストの定義です。
四つ目は、購買や調達部門向けです。彼らは契約上のリスクを最小化することを任務としています。価格体系の透明性、解約や更新の要点、SLA(サービス品質保証)の要点など、稟議で突かれやすい論点への回答をあらかじめ用意しておきます。
これらの情報を、一つのページにすべて詰め込むのではなく、買い手の検討状況(稟議、情シスレビュー、調達交渉など)に合わせて抜き差しできるよう、モジュール化して提供することがBGM戦略の鍵となります。

実際にどのようなコンテンツを用意すべきか。型として以下の7つのモジュールを組み合わせて構成することをお勧めします。

比較検討コンテンツの制作において、AI(ChatGPTやGemini Deep Researchなど)を単なる執筆ツールとして使うのは非常にもったいない話です。決裁が速くなるアウトプットを生むための具体的な手順を紹介します。

ステップ1:バイイング・グループの論点を棚卸しする AIに対し、実務、情シス、経営、購買のそれぞれの立場になりきらせ、比較検討時にどのような反対意見を出すかを列挙させます。さらに、その反対を覆すために必要な証拠は何かをAIに整理させ、論点の全体像を先に確定します。
ステップ2:Deep Researchで客観的な根拠を集める 主張の裏付けとなる一次情報を収集します。業界団体、調査会社、公式発表などのデータを優先します。数字は調査対象や期間、母数までを把握します。国内の購買行動の変化を引用するなら、単に85パーセントが事前に決めているとするだけでなく、調査条件まで明記し、出典URLを添えてコンテンツ化します。
ステップ3:モジュールごとに下書きを生成する 一気に書かせるのではなく、稟議メモ、情シス向け要件、ROI概算といったモジュール単位でAIに下書きさせます。これにより、用途に応じた情報の過不足を細かく調整できます。
ステップ4:AIに強烈な反証レビューをさせる 出来上がったコンテンツに対して、AIに意地悪な突っ込み役を演じさせます。情シスならここを突く、購買ならこの条項に反対する、といったシミュレーションを行い、回答を補強することで、現実の会議での停滞を最小限に抑えます。
この制作フローにおいて重要なのは、AIに混ぜ物をさせないことです。事実、数値、調査結果には必ず出典を付けるというルールをプロンプトに固定してください。出典は組織名、資料名、公開日、URLをセットで管理することが、情報の信頼性を保つ上で極めて重要です。
ここで、こうしたBGMの取り組みを進める中でよく挙がる疑問や懸念に、あえて触れておきたいと思います。
一つ目は、これほど詳細な情報を公開すると、競合に弱みを握られるのではないか、という懸念です。 確かに、リスクはゼロではありません。しかし、今の買い手は自ら情報を探し、AIを使って分析しています。情報を隠せば、彼らは断片的な情報からあなたの製品を勝手に不適合と判断してしまいます。むしろ、自ら不適合な条件や弱い部分を明示し、その上でどこが強いのかを定義するほうが、結果として自社に有利な比較軸を買い手の中に形成することができるのです。
二つ目は、AIが生成するコンテンツは結局どれも似通ってしまうのではないか、という点です。 だからこそ、AIを執筆ツールではなく、BGMにおける論点抽出や根拠管理のパートナーとして使うべきなのです。情報の構造と根拠がしっかりしていれば、表現の枝葉が多少似ていても、意思決定の材料としての価値は揺らぎません。買い手は面白い文章ではなく、決めるための正しい理由を探しているからです。
三つ目は、2026年という時代において、そもそもベンダーのWebサイトは今後読まれなくなるのではないか、という問いです。 国内の調査でも、普段利用する情報源の上位には、購買先企業のWebサイトが依然としてランクインしています。ただし、AIによる検索が増えているのも事実です。AIに正しく参照され、引用されるためには、情報が比較・条件・証拠として整理され、構造化されていることが、今後のベンダーサイトの生命線となります。

比較検討フェーズにおいて、資料請求というアクションだけでは不十分な場合が多いです。バイヤー・イネーブルメントの考え方に則り、買い手のタスクを一歩進めるためのCTAを配置しましょう。
例えば、経営や購買部門への説明を控えている担当者には、稟議用一枚メモのテンプレートを。情報システム部門の不安を解消したい担当者には、詳細な要件チェックシートを。予算取りを加速させたい場合には、簡易的なROI概算シミュレーターを提示します。

クリック数という表面的な数字よりも、バイイング・グループ内での会議が一段階前に進むような仕掛けを用意すること。それが、結果としてGTM戦略を成功させ、決裁スピードを早める最も合理的なアプローチです。
B2Bマーケティングにおける比較検討コンテンツの役割は、自社製品を美しく紹介することではありません。買い手の組織内で日々行われている、複雑で、時には苦痛を伴う選定と合意というタスクを、いかに軽く、速く完了させるか。その一点に尽きます。
日本の市場でも、高額な取引ほど関与人数が増え、検討は確実に長期化しています。もはや従来の営業手法や、一人の担当者のみを対象としたペルソナ設計だけでは、この停滞を打ち破ることはできません。
2026年に向けて取り組むべきは、BGM(Buying Group Marketing)の視点から役割別の論点セットを用意し、AIを駆使して徹底的に根拠を管理し、反対理由を潰し込むためのデシジョン・キットを完備することです。
もし、自社のウェブサイトや提供資料が、いまだに一方的な製品紹介に留まっていると感じるなら、まずは現在の商談で、情シス部門や経営層から過去にどのような指摘を受けたかを思い出し、それに対する回答をAIと一緒にモジュール化することから始めてみてください。その積み重ねが、半年かかっていた成約を、一ヶ月へと変えていく原動力になるはずです。
Q1. BGM(Buying Group Marketing)とは具体的に何ですか? BGMとは、B2Bの購買意思決定に関与する複数の関係者、つまりバイイング・グループ(購買グループ)全員の合意形成を支援することを目的としたマーケティング手法です。特定の担当者一人を説得するのではなく、組織内の異なる役割、例えば現場担当者、情シス、財務、購買などが持つそれぞれの懸念やニーズに対して、最適な情報を提供し、組織全体の意思決定を促します。
Q2. なぜBGMが必要なのですか? 現代のB2B購買では意思決定が複雑化しており、平均13人から18人以上の人々が関与するためです[出典:Forrester Blog / ワンマーケティング株式会社]。多くの案件が社内調整の段階で停滞しており、担当者一人へのアプローチだけでは決裁までたどり着けないケースが増えています。また、買い手は営業に接触する前に候補を絞り込む傾向が強まっているため、非対面での合意形成を支援するBGMの視点が不可欠となっています[出典:6sense / ワンマーケティング株式会社]。
Q3. ペルソナ設計はもう不要ですか? 不要ではありません。しかし、比較検討段階においては、個人の共感を得るためのペルソナ設計よりも、組織内の各役割が抱く具体的な反対理由や評価軸に応えるBGMの設計のほうが、決裁短縮には直接的な効果を発揮します。平均13人以上が関与するという前提に立てば、役割ごとの論点を揃えることが優先順位として高くなります[出典:Forrester “Forrester: The State Of Business Buying, 2024”]。
Q4. 比較表を作る際に気をつけることはありますか? 単なる機能の羅列ではなく、買い手の社内会議で使われるであろう比較軸、例えば運用負荷、統制、コスト構造、立ち上げ速度といった観点に寄せることが重要です。また、自社の主観による断定を避け、根拠に基づいた正確な情報を提示することで、バイイング・グループ全体の信頼を得ることができます。
Q5. 生成AI時代、Webサイトの重要性は変わりますか? Webサイトは依然として有力な情報源ですが、その使い方が変わります。買い手はサイトを読み物としてだけでなく、AIを使って情報を抽出・整理するためのソースとしても活用します。AIに正しく参照され、引用されるためには、情報が構造化され、比較や証拠が整理されていることがこれまで以上に重要になります[出典:ワンマーケティング株式会社「BtoB購買プロセス白書2025」]。
出典・参考
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