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AI Overviews(AIによる概要)の普及により、検索行動は「情報を探す」から「答えを得る」へと変化し、検索順位が高くてもクリックされない「ゼロクリック」の傾向が強まっています 。本記事では、Pew Research CenterやAhrefsのデータをもとにB2Bマーケティングへの影響を分析 。AIに「信頼できる情報源」として引用され、指名検索につなげるための「5つの編集原則」と、これからのコンテンツ戦略について解説します。

目次
検索エンジンの検索結果画面が、かつてないスピードで形を変えています。2024年から2025年にかけて本格化したAIによる検索体験の変革は、私たちが長年信じてきた「検索順位を上げてクリックを獲得する」というSEOの不文律を静かに、しかし確実に過去のものへと押しやりつつあります。
特にB2Bの領域において、この変化は単なる技術的なアップデートではありません。顧客が製品やサービスと出会う最初の接点、すなわち「指名される前」の段階で、AIが強力なフィルターとして機能し始めているのです。
ここでは、AI Overviews(AIによる概要)が標準化した世界において、B2B企業が取るべきコンテンツ戦略について掘り下げます。目指すのは、小手先のテクニックではなく、検索AIに信頼され、引用され、そして最終的に人間の意思決定のテーブルに乗るための、本質的な編集方針の再構築です。

少し前まで、私たちはGoogle検索を「ウェブサイトへの入り口」だと捉えていました。キーワードを入力し、青いリンクのリストから探している情報がありそうなページを選んでクリックする。この一連の動作がインターネット検索の基本でした。
しかし、日本でも提供が拡大しているAI Overviews(AIによる概要)などの機能は、この前提を根底から揺さぶっています。検索結果の最上部に、質問への回答が要約されて表示される。ユーザーはリンクをクリックすることなく、その場で知りたいことの概要を掴み、満足して検索を終えるか、あるいは次の検索へと移っていく。
この変化を肌で感じているマーケティング担当者は少なくありません。あるSaaS企業のマーケティングマネージャーの話をしましょう。彼らは長年、業界用語や課題解決系のキーワードで上位表示を維持し、安定した流入を獲得していました。しかしここ最近、順位は変わらないのに、記事経由のホワイトペーパー・ダウンロード数がじわりと減り始めたのです。
当初、彼らはコンテンツの質が落ちたのか、あるいは競合が強くなったのかと疑いました。しかし、アクセス解析を詳しく見ていくと、ある仮説が浮かび上がってきました。ユーザーは検索結果画面で答えを見て満足しているか、あるいはAIが提示した要約の中で比較検討を済ませ、特定の数社だけに絞ってから詳細を調べ始めているのではないか、と。
彼らが直面していたのは、単なる「クリック減」ではありませんでした。「比較検討の土俵に乗るためのルール」が変わってしまったことへの戸惑いだったのです。
この感覚的な変化は、データによっても裏付けられ始めています。クリックが減るというのは、決して悲観的な予測だけの話ではありません。実際に海外の調査機関やツールベンダーが公表しているデータを見ると、検索行動の構造的な変化が見て取れます。
Pew Research Centerが2025年に発表した分析結果は、私たちに冷静な現実を突きつけました。彼らが米国のユーザー行動データを分析したところ、AIによる概要が表示された検索訪問では、従来の検索結果リンクがクリックされる割合が、AI概要がない場合に比べて低い傾向にあることが示されました。具体的には、AI概要がない場合のリンククリック率が約15パーセントであったのに対し、AI概要がある場合は約8パーセントにとどまったのです。出典:Pew Research Center/Google users are less likely to click on links when an AI summary appears in the results/2025年7月22日/https://www.pewresearch.org/short-reads/2025/07/22/google-users-are-less-likely-to-click-on-links-when-an-ai-summary-appears-in-the-results/
さらに衝撃的だったのは、AI概要の中に含まれるリンク自体のクリック率です。これはわずか1パーセント程度と稀で、多くのユーザーは要約を読むだけで検索行動を終えているか、あるいはそこで得た情報をもとに別の行動へ移っていることが示唆されています。実際、AI概要が表示されたページでは、そこでブラウジングセッションを終了する割合も高くなっていました(AI概要あり:26パーセント vs なし:16パーセント)。出典:Pew Research Center/Google users are less likely to click on links when an AI summary appears in the results/2025年7月22日/https://www.pewresearch.org/short-reads/2025/07/22/google-users-are-less-likely-to-click-on-links-when-an-ai-summary-appears-in-the-results/
また、SEOツールを提供するAhrefsによる30万キーワードの分析でも、同様の傾向が報告されています。AI Overviewsが表示される検索結果において、本来なら最もクリックされるはずの1位掲載ページのCTR(クリック率)が、そうでない場合に比べて約34.5パーセントも低いという相関が見られたのです。出典:Ahrefs/AI Overviews Reduce Clicks by 34.5%/https://ahrefs.com/blog/ai-overviews-reduce-clicks/
これらのデータが示唆する事実は明確です。検索結果の上位にいることの価値が、かつてほど絶対的ではなくなりつつあるのです。ユーザーは検索結果画面上で答えを得て、クリックするというコストを払わずに離脱するか、あるいはAIが提示した情報をもとに、より具体的な指名検索へとシフトしています。

では、すべての検索行動でクリックが激減するのでしょうか。必ずしもそうではありません。特にB2Bの文脈では、影響を受ける領域とそうでない領域の濃淡がはっきりしてくると考えられます。
影響が大きいのは、いわゆる「情報収集型」のクエリです。 「〇〇 課題」「〇〇 ツール 比較」「〇〇 選定基準」といった、導入検討の初期段階で行われる検索は、AIが最も得意とする要約の対象です。AIはネット上の情報を統合し、「〇〇を選定する際のポイントは、価格、機能、サポート体制の3点です」といった綺麗な回答を提示します。ここで自社の名前や考え方が引用されなければ、そもそもユーザーの目に触れることさえなく、比較の土俵に上がれません。
一方で、影響が比較的小さいと考えられるのが「指名検索」や「ナビゲーション型」のクエリです。 すでに特定の企業やサービスを知っていて、「〇〇社 ログイン」「〇〇サービス 料金」と検索するユーザーは、AIの要約ではなく公式サイトへの移動を目的としています。この領域では、引き続き公式サイトが一番上に表示され、クリックされる構造は変わらないでしょう。
つまり、これからのB2Bマーケティングにおいて重要になるのは、まだ指名されていない段階、すなわち情報収集のフェーズで、いかにしてAIに「信頼できる情報源」として認識され、その要約の中に自社の存在や独自の視点を滑り込ませるか、という点に集約されます。
これまで重視されてきた「流入数」というKPIは、徐々にその意味を変えていくでしょう。これからは「どれだけ比較検討の土俵に載れたか」、あるいは「AIに引用され、選ばれる存在になれたか」という、より質的な指標が重要になってきます。
Googleは、AI機能においても基本的なSEOのベストプラクティスは有効であり、特別な最適化は不要だという立場をとっています。出典:Google Search Central/AI features and your website(AI Overviews / AI Mode)/https://developers.google.com/search/docs/appearance/ai-features
しかし、これを「今まで通りでいい」と解釈するのは危険です。むしろ、「基本の徹底」が求める水準が、人間だけでなくAIにとっても理解しやすい高度な論理構造と信頼性を要求するようになったと捉えるべきでしょう。
これからの勝ち筋を一言で言えば、「引用される一次性」と「検証可能性」の確立です。
ここで言う「引用される」とは、単にリンクが貼られることだけを指しません。AIが回答を生成する際に、「この情報は信頼できるソースに基づいている」と判断し、その生成テキストの中に自社のデータや見解、あるいは社名が組み込まれることを意味します。
そのためには、AIが学習しやすく、かつ人間が読んでも信頼に足るコンテンツが必要です。ここからは、具体的にどのような編集方針を持てば、AIに選ばれ、人間に響くコンテンツになるのか、5つの原則に分解して解説します。

これらは単なるSEOのチェックリストではありません。B2B企業のオウンドメディアが持つべき、編集上のスタンスであり、哲学です。
AIは曖昧さを嫌います。一方で、明確な定義や断定的な表現を好んで引用する傾向があります。 記事の冒頭やセクションの始まりでは、「Xとは何か」を極めてシンプルに、一文で言い切ることを意識してください。
例えば、「インサイドセールスとは、電話やメールを用いて非対面で行う営業活動のことですが、最近では〜」とダラダラ続けるのではなく、「インサイドセールスとは、見込み客の育成と商談創出を非対面で完結させる営業プロセスである」と断定します。
さらに重要なのが、その定義の「範囲」や「対象外」をセットで提示することです。「ただし、単なるテレアポとは異なり、マーケティングとフィールドセールスをつなぐ役割を持つ」といった補足を直後に置くことで、AIが文脈を誤解するリスクを減らせます。AIは例外処理が苦手な側面があるため、前提条件を明確にテキスト化しておくことが、正しい引用につながります。
「検証可能性」とは、その情報が事実であることを、第三者が追跡・確認できる状態を指します。 B2Bの記事ではよく「多くの企業で導入が進んでいます」といった曖昧な表現が使われますが、これはAI時代には弱点になります。
数字を出すなら、「いつ」「どこで」「誰が」「どのような方法で」調査したものなのかを明記してください。たとえば、「2024年の弊社独自調査(N=300、国内製造業向けアンケート)によると」と添えるだけで、その情報の信頼度は格段に上がります。
また、外部の情報を引く際も同様です。前述したPew Research Centerのデータが信頼されるのは、彼らが調査手法やサンプル数を詳細に開示しているからです。出典:Pew Research Center/Google users are less likely to click on links when an AI summary appears in the results/2025年7月22日/https://www.pewresearch.org/short-reads/2025/07/22/google-users-are-less-likely-to-click-on-links-when-an-ai-summary-appears-in-the-results/
自社のコンテンツも同様に、出典や根拠を明示することで、AIから「信頼できる情報源(Reference)」として認識されやすくなります。
ユーザーは意思決定をするために検索しています。したがって、意思決定を前に進めるための「判断基準」を提供しているページは重宝されます。
自社製品のメリットばかりを並べるのではなく、「どんな会社には向いているか」、そして正直に「どんな会社には向かないか」を明記してください。 「このツールは、専任の担当者がいない小規模組織にはオーバースペックになる可能性があります」といったネガティブな情報も含んだ記述は、情報密度が高いと判断されやすく、結果としてAIの要約にも「注意点」として引用される可能性が高まります。
比較軸(価格、機能、サポート、拡張性など)を言語化し、それぞれの軸について公平な視点で語ることは、結果的に自社の信頼性を高め、指名検索へとつなげる布石になります。
AIはテキストを塊(チャンク)として認識し、処理します。そのため、記事の構造自体が論理的で、引用しやすい形になっていることが重要です。
見出しは、それ自体がユーザーの質問に対する回答の要約になっているのが理想です。「SEOの未来」という抽象的な見出しよりも、「なぜ2026年にSEOの役割が変わるのか」という問いかけや、「SEOは流入獲得からブランド形成へシフトする」という結論を含んだ見出しの方が、AIにとっては文脈を理解しやすくなります。
また、1つの見出しに対して、結論、その根拠、補足情報という順序で構成するパラグラフ・ライティングを徹底してください。重要な定義や結論が、修飾語の多い長い文章の中に埋もれてしまわないよう、箇条書きや短文を活用して視覚的にも論理的にも際立たせることが有効です。
AIは既存の情報の「平均値」を出力するのは得意ですが、世の中にない新しい情報を生み出すことはできません。ここに、人間が作るコンテンツの勝機があります。
ネット上の情報をまとめただけの記事は、AIによって瞬時に代替されます。必要なのは、自社にしかないデータをコンテンツ化する「一次性」です。 たとえば、営業部門に蓄積された「お客様からの問い合わせ理由」を分類してグラフ化する。カスタマーサクセス部門が持っている「導入時によくあるつまずきポイント」を記事にする。あるいは、自社ツールを使って業界の課題を検証してみる。
こうした「自社ならではの生々しい事実」は、AIが学習データとして喉から手が出るほど欲しい情報であり、かつ他のどのサイトも真似できない独自の価値となります。これが引用される源泉となります。
ここまで、AI時代に向けた理想的な編集方針を述べてきました。しかし、これを読んでいる現場の方々からは、もっともな懸念や反論が聞こえてきそうです。いくつか想定される疑問について、現実的な視点で答えておきたいと思います。
まず、「データや論理だけで、本当に人は動くのか?」という疑問です。確かに、B2Bの購買といえど、最終的には担当者の感情や熱意が決定打になることは多々あります。AIに最適化されたロジカルすぎる文章は、無味乾燥でつまらないものになりがちです。 これに対する答えは、「AI向けの構造化」と「人間向けの共感」の分業です。記事の骨格や定義部分はAIが理解しやすいように論理的に組みますが、その合間に挟む具体的なエピソードや、「現場あるある」のような悩みへの共感は、人間だけが反応できるフックとして意図的に残します。AIには要約させ、人間には「この書き手は私の痛みを分かっている」と感じさせる。この二層構造が、これからのライティングの要諦です。
次に、「一次情報を作るリソースがない」という切実な問題です。独自調査やデータ分析には時間もコストもかかります。 しかし、一次情報は必ずしも大規模な調査である必要はありません。日々の営業日報や、サポートへの問い合わせメールの中にこそ、宝の山があります。「先週、お客様からこんな変わった質問をいただきました」という小さな事実一つでも、それはネット上にはない貴重な一次情報です。社内の一次情報を掘り起こし、言語化することこそが、編集者の新しい役割になるはずです。
最後に、「AIに要約されてしまったら、サイトに来てくれないのでは?」という不安です。これはある程度、事実として受け入れる必要があります。前述の通り、単純なQ&Aや用語解説での流入は減るでしょう。 しかし、裏を返せば、それでもサイトを訪れてくれるユーザーは、より深い情報を求め、本気で検討している質の高いリードである可能性が高いと言えます。流入数の減少を恐れるあまり、AIによる回答を拒否(No Snippetタグの設定など)してしまえば、そもそも比較検討の土俵にすら上がれなくなるリスクの方が大きいでしょう。AIに要約されることを「機会損失」ではなく「認知の入り口」と捉え直し、そこからいかに自社の世界観へ引き込むかを考える方が建設的です。

最後に、これからの効果測定についても触れておきましょう。 Googleの公式情報では、AI機能に表示されたサイトのパフォーマンスも、Search Consoleの全体データに含まれると説明されています。出典:Google Search Central/AI features and your website(AI Overviews / AI Mode)/https://developers.google.com/search/docs/appearance/ai-features
しかし、現場の実感として、AI Overviews経由の流入だけを綺麗に切り出して評価することは、現時点では容易ではありません。外部ツールも推計値を出していますが、完全な実数把握は難しいのが現状です。
だからこそ、2026年に向けては、評価指標の再定義が必要です。「オーガニック検索からの流入数」という指標だけに固執すると、AIの影響で数字が下がった際に、コンテンツの価値を見誤る可能性があります。
見るべきは、指名検索の数であり、社名とカテゴリ名を掛け合わせた検索クエリの増加であり、そして比較ページへの到達率や、資料請求後の商談化率といった「意思決定の前進」を示す指標です。AIが入り口で選別を行った結果、最終的に自社を選んでくれたユーザーがどれだけいるか。その歩留まりを追うことこそが、ブレないマーケティングの指針となるでしょう。
2026年のSEOは、もはや「検索エンジンの裏をかいて上位をもぎ取るゲーム」ではありません。AIという優秀な秘書が、ユーザーの代わりに膨大な情報を読み込み、整理し、提示する世界です。
PewやAhrefsが示すクリック減の傾向は、私たちに戦い方の変更を迫っています。 出典:Pew Research Center/Google users are less likely to click on links when an AI summary appears in the results/2025年7月22日/https://www.pewresearch.org/short-reads/2025/07/22/google-users-are-less-likely-to-click-on-links-when-an-ai-summary-appears-in-the-results/ 出典:Ahrefs/AI Overviews Reduce Clicks by 34.5%/https://ahrefs.com/blog/ai-overviews-reduce-clicks/
しかし、Googleが言うように、奇をてらった特別な対策が必要なわけではありません。出典:Google Search Central/AI features and your website(AI Overviews / AI Mode)/https://developers.google.com/search/docs/appearance/ai-features
必要なのは、当たり前すぎて見過ごされてきた「情報の質」への徹底的なこだわりです。
曖昧な言葉を排し、定義を明確にする。 主張には必ず根拠と出典を添える。 メリットだけでなく注意点も誠実に伝える。 そして、自社だけが知っている一次情報を惜しみなく出す。
これらの原則は、AI対策であると同時に、読み手である人間に対する誠実さの表れでもあります。AIに正しく理解され、引用されるコンテンツは、必ず人間にとっても有益で、信頼に足るコンテンツになるはずです。
検索窓の向こう側にいるのは、AIではなく、課題を抱えた生身の人間です。AIというフィルターを通して、その人に「この会社なら信頼できる」というメッセージを届ける。それが、これからのB2Bコンテンツが目指すべき地平なのです。
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