GTM
マーケティング、インサイドセールス、営業……チームごとの連携がうまくいかず、「みんながバラバラに動いている」と感じていませんか? BtoBビジネスにおいて、組織を一つにし、再現性のある売上を作る鍵となるのが「GTM(Go To Market)」戦略です。単なる用語解説ではなく、現場で使える「市場攻略の設計図」としてのGTMの作り方を、5つのステップで実践的に紐解きます。

なお、ログリー株式会社では、企業のWeb行動から「今まさに検討を始めた見込み顧客」を可視化し、マーケティングや営業活動の機会損失を防ぐためのBtoBマーケティングAIエージェント『ウルテク』を提供しています。サイト内外の行動から顧客の隠れた興味・関心(インテント)をAIが解析し、アプローチすべき有望企業をリアルタイムで特定できる点が特長です。サービス資料は無料でダウンロードできますので、下記からお気軽にご覧ください。
目次
いい商品さえ作れば、自然とお客様が集まって売れていく。 かつてはそんな牧歌的な時代もあったかもしれませんし、今でも心のどこかでそんな「良いモノ神話」を信じたくなる瞬間があります。正直に言えば、私自身もマーケティングの仕事を始めたばかりの頃はそう思っていました。プロダクトが素晴らしければ、余計な営業や宣伝なんて野暮なだけだと。
しかし、BtoBの現実はもう少しシビアで、そして複雑です。どれほど画期的なSaaSや、どれほど精巧な産業機械を作ったとしても、それを「誰に」「どうやって」届けるかの設計図がなければ、商品は倉庫やサーバーの中で埃をかぶるだけになってしまいます。
そこで重要になるのが、GTM(Go To Market)戦略です。
言葉だけ聞くと難しそうに感じるかもしれませんが、本質はとてもシンプルです。これは、作った商品を必要な人に確実に届け、ビジネスとして成立させるための「攻略本」であり、チーム全員が迷子にならないための「旅のしおり」のようなものです。
今回は、このGTMについて、あえて難しい専門用語をできるだけ削ぎ落とし、その本質的な考え方と作り方を解説していきます。なぜ多くのBtoB企業がGTMの策定に力を入れるのか、その理由を一緒に紐解いていきましょう。
まず、GTMという言葉の定義から入る前に、少し想像してみてください。あなたが素晴らしい機能を持った「魔法の掃除機」を開発したとします。この掃除機は、オフィスの床を一瞬でピカピカにできます。
しかし、あなたがこの掃除機を持って、砂漠の真ん中で叫んでいたらどうでしょうか。あるいは、すでに清掃業者が毎日入っているビルに飛び込み営業をかけて、「掃除機いりませんか?」と聞いて回ったらどうなるでしょうか。おそらく、ほとんど売れないはずです。
これがGTMのない状態です。
GTM(Go To Market)とは、端的に言えば「いい商品を、それを本当に必要としている会社に、適切な方法で届けて、売上を作るまでの勝ち筋」のことです。
BtoBビジネスにおいて、お客さまは「会社」です。個人の買い物のように「なんとなく良さそうだから買ってみよう」という衝動買いはほとんど起きません。複数の人が検討し、予算を確保し、導入効果をシビアに見定めます。だからこそ、行き当たりばったりのアプローチではなく、設計された「地図」が必要になるのです。
ここで一つ、ある架空のBtoB企業の失敗談をお話しします。これは特定の誰かの話ではありませんが、多くのスタートアップや新規事業で繰り返されている光景です。
その会社、テック・フロンティア社(仮名)は、非常に高機能なタスク管理ツールを開発しました。エンジニアチームの技術力は高く、機能の多さでは競合を圧倒していました。「これなら絶対売れる」と確信した彼らは、すぐに販売を開始しました。
しかし、彼らはGTMを深く考えませんでした。「便利なんだから、あらゆる業種の人が使うはずだ」と考え、手当たり次第にWeb広告を出し、営業担当者には「とにかく電話をかけろ」と指示を出しました。
結果はどうだったでしょうか。 広告費は湯水のように消えましたが、問い合わせてくるのは「無料なら使いたい」という個人事業主ばかり。営業担当者が必死にアポイントを取った大企業からは、「機能が多すぎて使いこなせない」「うちはセキュリティ基準が厳しいから導入できない」と断られ続けました。
社内は疲弊しました。営業は「マーケティングが連れてくる客の質が悪い」と不満を漏らし、開発チームは「こんなにいい機能を作ったのに、なぜ売れないんだ」と営業を責めました。
彼らに欠けていたのは、商品の良し悪しではありません。「誰に、どういう価値として、どうやって届けるか」というGTMの視点がすっぽり抜け落ちていたのです。このままでは、どんなに資金があっても足りません。
この話は、決して他人事ではありません。地図を持たずにジャングルに飛び込むようなビジネスは、あまりにも危険なのです。

では、テック・フロンティア社はどうすればよかったのでしょうか。GTM戦略を立てる際に必ず答えを出さなければならない、3つの大きな質問があります。これが「地図」を描くための基本座標になります。
BtoBビジネスの世界は広大です。日本国内だけでも数百万の企業が存在します。そのすべてを相手にする時間も予算も、私たちにはありません。
まず決めるべきは、「どの会社を一番大事にするか」です。専門用語ではICP(Ideal Customer Profile:理想の顧客像)などと呼ばれますが、要は「相思相愛になれる相手は誰か」を定義することです。
テック・フロンティア社の場合であれば、「あらゆる業種」ではなく、「プロジェクト単位で動き、複雑な工程管理に悩んでいる、従業員50〜300名規模のシステム開発会社」と絞り込むべきだったかもしれません。そうすれば、広告のメッセージも営業のトークも、すべてその相手に響くものに変えられたはずです。
「何を売る?」と聞かれると、つい「タスク管理ツールです」と答えたくなります。しかし、GTMで考えるべき「WHAT」は、商品そのものではなく「提供価値」です。
お客様がお金を払うのは、ツールそのものではなく、そのツールを使うことで得られる「変化」に対してです。

この「変化」こそが売り物です。「機能が100個あります」と言うよりも、「御社のエンジニアの無駄な会議時間を2割減らし、開発に集中できる時間を増やせます」と伝えたほうが、相手の心は動きます。
商品スペックの羅列ではなく、相手の課題をどう解決するか(ソリューション)を言語化することが、GTMにおける「WHAT」の定義です。
相手(WHO)が決まり、届ける価値(WHAT)が決まったら、最後はどうやって出会い、契約に至るか(HOW)のルート設計です。
BtoBの購買プロセスは、スーパーで大根を買うのとはわけが違います。「知る → 興味を持つ → 比較検討する → 社内稟議を通す → 契約する」という長い道のりがあります。この道のりのどこで、どんなアプローチをするかを決めます。
例えば、「忙しいIT企業のマネージャー」がターゲットなら、電話営業は嫌われるかもしれません。それよりも、技術ブログで有益な情報を発信し、検索経由で見つけてもらう「インバウンド」の手法が合っている可能性があります。逆に、地方の製造業の工場長がターゲットなら、足繁く通って顔を合わせる「フィールドセールス」が最も有効かもしれません。
この「出会い方」の組み合わせこそが、GTMの腕の見せ所です。

GTMのもう一つの重要な役割は、社内のチーム連携をスムーズにすることです。
GTMとThe Modelについての連携については以下の記事を参考にしてください。
GTMとThe Modelの違い──市場を攻略する「設計図」と組織を動かす「型」の関係性とは?
BtoB企業には、主に3〜4つの役割(チーム)が登場します。これを小学生の「お店屋さんごっこ」や「サッカーチーム」に例えるとわかりやすいかもしれません。
GTMは、これらのチーム全員に配られる「共通のルールブック」です。
もしGTMがなかったらどうなるでしょうか。マーケティングは「とにかく数を集めればいい」と考え、営業は「質の悪い客ばかりよこすな」と怒り、カスタマーサクセスは「なんでこんな無理な約束で売ったんだ」と頭を抱えることになります。これでは会社というチームは機能しません。
全員が「今回はこの業界の、こういう課題を持つ会社をターゲットにしよう」という共通認識(GTM)を持っていれば、パス回しは驚くほどスムーズになります。
なぜこれほどまでに、BtoBではGTMが叫ばれるのでしょうか。それはBtoBビジネス特有の難しさに起因します。

第一に、決裁までのプロセスが複雑だからです。 個人の買い物なら財布を出せば終わりですが、企業では現場の担当者が「欲しい」と思っても、課長が承認し、部長が決裁し、場合によっては役員会議にかける必要があります。この長いプロセスを乗り越えるには、それぞれの立場の人が納得する材料を、適切なタイミングで提供しなければなりません。行き当たりばったりの営業では、この壁を越えられないのです。
第二に、再現性(Sustainability)が必要だからです。 「たまたま凄腕の営業マンがいたから売れた」では、その人が辞めた瞬間に会社の売上は止まってしまいます。GTMとして「こういう会社に、こうアプローチすれば売れる」という勝ちパターンを組織に定着させることができれば、担当者が変わっても、新人が入っても、一定の成果を出し続けることができます。ビジネスを安定して成長させるためには、属人性を排除した「仕組み」としてのGTMが不可欠なのです。

では、実際にどうやってGTMを作っていけばいいのでしょうか。あまり難しく考えすぎず、以下のシンプルな5つのステップを意識してみてください。
まずは「どんな会社に一番使ってほしいか?」を言語化します。できれば、「年商10億円以上の食品メーカーで、品質管理のアナログ化に悩んでいる会社」くらい具体的にイメージしてください。既存の優良顧客がいるなら、その会社をモデルにするのが一番の近道です。
その会社の担当者は、毎日どんなことでため息をついているでしょうか。「月末の集計作業で終電帰り」「ミスが起きて上司に怒られるのが怖い」。そんな生々しい感情や状況まで想像し、整理します。
その悩みを、自社の商品がどう解決できるかを言葉にします。「機能」ではなく「メリット」で書くのがコツです。「自動集計機能があります」ではなく、「月末の作業時間をゼロにして、早く帰れるようになります」と言い換えましょう。
そのお客様は普段どこにいるでしょうか。業界紙を読んでいるのか、Googleで検索しているのか、Facebookを見ているのか。彼らが情報を得ている場所に、自社の情報を置く計画を立てます。
計画を実行したら、必ず数字で見直します。「セミナーに何社来たか」「そのうち何社が商談に進んだか」「何社が契約したか」。この数字を見れば、「セミナーの内容が悪かったのか」「営業の提案が響かなかったのか」など、どこでつまずいているかが分かります。
ここまでGTMの重要性を説いてきましたが、最後に少し意地悪な視点、しかし非常に重要な現実的な話をさせてください。
「完璧なGTMを作れば、必ず成功するのか?」
答えはNOです。むしろ、最初から完璧な設計図を作ろうとすることこそが、最大の落とし穴になり得ます。
現場でよくある反論に、「そんなに細かくターゲットを絞ったら、売上の機会を逃すんじゃないか?」というものがあります。あるいは、「データを見て戦略を立てても、実際の現場では理屈通りにいかない」という営業の声も聞こえてきそうです。
これらは、ある意味で真実です。机上の空論で作ったGTMは、往々にして現場の感覚とズレます。市場は常に動いていますし、競合他社も新しい動きをしてきます。半年前には正解だったルートが、今では通行止めになっていることも珍しくありません。
大切なのは、GTMを「一度決めたら絶対に変えてはいけない法律」だと思わないことです。GTMはあくまで「仮説」です。「たぶん、このルートが一番早いはずだ」という仮説を持って動き出し、現場で違和感を感じたら、すぐに地図を書き直す勇気を持ってください。

「絞り込みすぎでは?」という懸念に対しては、「まずはこの狭い領域でNo.1を取り、そこを足がかりに広げていこう」という順序の話として捉えるのが健全です。リソースが限られている中で全方位に戦力を分散させることこそ、負け戦の始まりだからです。
データも重要ですが、それ以上に「昨日、お客様が商談で何と言ったか」という定性的な一次情報が、GTM修正の最大のヒントになります。設計図に固執せず、現実に合わせて柔軟に書き換えていく。その泥臭い運用こそが、実はGTM成功の鍵なのです。
BtoBビジネスにおけるGTM(Go To Market)戦略について、その構造と重要性を解説してきました。
GTMとは、単なるマーケティング用語や経営陣のための資料ではありません。「誰に(WHO)」「何を(WHAT)」「どうやって(HOW)」届けるかを明確にし、マーケティングから営業、カスタマーサクセスまで、会社全体が同じ方向を向いて走るための「共通言語」であり「地図」です。
この地図があれば、無駄な営業で疲弊することは減り、本当に自社の商品を必要としてくれるお客様に出会える確率がグッと高まります。そして何より、チームの中で「なぜ売れたのか」「なぜ売れなかったのか」の会話が噛み合うようになり、組織としての学習スピードが加速します。
もし今、あなたの会社やチームが「いい商品なのに売れない」「みんながバラバラに動いている気がする」と感じているなら、一度立ち止まって、この地図を広げてみてください。目的地はどこで、今はどこにいて、誰に何を届けるべきなのか。それを話し合うこと自体が、GTMの第一歩になるはずです。
BtoBのGTMとは、「いい商品を“欲しい会社”にちゃんと届けて、みんなで同じ作戦で勝ちにいくための地図」です。この地図を手に、ぜひ市場という大海原の攻略を楽しんでください。
ウルテクについて、もっと詳しく知りたい方へ