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BtoBマーケティング
アカウントインテリジェンス
目次
Webサイトのアクセス解析を開く。右肩上がりのグラフに、少しだけ胸をなでおろす。新しい導入事例を公開し、渾身のブログ記事も更新した。SNSでのエンゲージメントも悪くない。数字だけを見れば、マーケティング活動は順調そのものに見える。
…それなのに、営業チームから聞こえてくるのは「質の高いリードが足りない」という声。なぜ、サイトへの訪問者数という「量」の成果が、商談という「質」の成果に結びつかないのか。
もし、あなたが今こんな壁に突き当たっているとしたら、それは決してあなただけの悩みではありません。実は、多くのBtoB企業が同じジレンマを抱えています。
その原因を解き明かす鍵、それがBtoBマーケティングにおける絶対的な原則、「95:5ルール」です。これは、どのような時期においても、市場にいる潜在顧客の95%は、積極的に製品やサービスを探しているわけではないという事実を示しています(出典: Edelman and LinkedIn, “2024 B2B Thought Leadership Impact Report”)。つまり、あなたのサイトを訪れた20人のうち、実に19人は「今は買う気がない」顧客なのです。
彼らは情報を集めているだけかもしれません。あるいは、あなたの会社に転職を考えている学生や、調査目的の競合他社かもしれません。この95%の「非・検討層」と、残り5%の「今すぐ客」を同じように扱っていては、商談が増えないのは当然と言えるでしょう。
さらに、いざ検討を始めたとしても、現代のB2B購買プロセスは驚くほど複雑です。買い手は、購買を決定するまでに平均10種類もの情報チャネルを渡り歩き(出典: McKinsey & Company, “Five fundamental truths: How B2B winners keep growing”)、社内にいる6人から10人の関係者と合意を形成しながら、慎重に事を進めます(出典: Gartner, “Buyer Enablement”)。
この記事では、入口の「訪問者数」という量的な指標に一喜憂いするのをやめ、真に商談に繋がる5%のリードを見極めるための質的な転換、「“今”話すべき相手だけを選び抜き、集中する仕組み」の作り方を、具体的なステップに沿って徹底的に解説します。このアプローチを実践することで、あなたの商談化率を劇的に改善し、結果として商談数を2倍にすることも夢ではありません。
まず、一番最初にやるべきなのは、現状を正しく、そして少しだけ厳しく見つめ直すことです。「訪問者が増えている」という事実の裏に隠された、顧客の多様な「意図」を解き明かしていきましょう。
BtoBにおける「95:5ルール」は、単なる経験則ではありません。企業の購買活動は、個人の衝動買いとは全く異なります。予算策定のサイクル、中期経営計画、既存システムの契約期間など、多くの制約の中で計画的に行われます。そのため、ほとんどの期間において、企業は「現状維持」のフェーズにあり、新たな製品・サービスを積極的に探してはいないのです。
あなたのサイトを訪れる95%のユーザーは、以下のような層である可能性が高いでしょう。
これらの訪問者すべてに同じようにアプローチするのは、大海で一本の釣り糸を垂れるようなものです。私たちのゴールは、この中から「今、まさに釣りをすべき魚群」、つまり5%の検討層を見つけ出すことにあります。
では、どうすれば訪問者の群れの中から、光る原石、つまり「購入意欲(Intent)の高い」5%を見つけ出せるのでしょう?答えは、サイト上の彼らの「行動データ」という名のパンくずに隠されています。具体的には、以下の3つのシグナルに注目してください。
シグナル①:「本気度」の高いページを見ているか?(高意図ページの閲覧) ブログ記事を流し読みするのと、「価格ページ」を熟読するのとでは、その意図は全く異なります。具体的な検討段階に進んだユーザーは、以下のようなページを訪れる傾向があります。
これらのページの閲覧比率や、特定の訪問者がこれらのページ間をどう回遊しているかを分析することが、第一のステップです。
シグナル②:どれくらい熱心に読み込んでいるか?(エンゲージメントの深度) ただページを訪れただけでは、本気度は測れません。その「熱中度」を測る指標がエンゲージメントの深度です。
例えば、「1週間で3回訪問し、毎回5ページ以上を閲覧、価格ページに合計10分以上滞在したユーザー」は、極めて高い関心を持っていると判断できます。
シグナル③:仲間と共有しようとしているか?(購買チームの痕跡) BtoBの購買は、個人ではなく「チーム」で行われます。このチームの動きを捉えることが、商談化への最も確実な近道です。
これらの「チームの痕跡」は、「社内で検討が公式に始まった」ことを示す、非常に重要なシグナルです。まずはこれらの指標を分析し、今増えている訪問者が一体「誰」なのかを明らかにすることから始めましょう。
「フォームから問い合わせがあった人=良いリード」。この考え方は、もはや時代遅れです。問い合わせという単一のアクションだけでは、そのリードが本当に商談に繋がる「宝石」なのか、ただの「石ころ」なのかを見分けることはできません。これからは、3つの要素を掛け合わせた、より立体的な視点でリードの質を判断する必要があります。
それが、FIB(フィット × インテント × バイング・グループ)という、新たなリード評価の羅針盤です。
どんなに熱心なリードでも、そもそも自社の製品・サービスが解決できない課題を持っていたり、ターゲットとする顧客像と大きくかけ離れていたりすれば、成約には至りません。最初のフィルターが、この「Fit(適合性)」です。
まずは、これらの「相性」を客観的に評価し、そもそもアプローチすべき相手かどうかを見極めます。
次に評価するのが、第1章で解説した「購入意欲」です。Fitが高くても、購入のタイミングが「今」でなければ、営業リソースを投下するのは時期尚早です。
これらのインテント・サインをスコアリングし、顧客の「買いたい」という熱量を可視化します。
BtoB取引の成否を分ける最後の、そして最も重要な要素が「購買チーム」の存在です。担当者一人の熱意だけでは、稟議の壁は越えられません。
これらの「チーム感」をスコアリングすることで、そのリードが単なる個人レベルの興味なのか、会社として公式に動き出した案件なのかを判断します。
このFIBの3つの軸を総合的にスコアリングし、「今すぐ接触すべき(Hot)」「少し様子を見る(Warm)」「じっくり育てる(Cold)」といったグループにリードを振り分けること。これが、商談を2倍にするための、現代のリード選別術なのです。
FIBスコアリングによって「今、話すべき相手」を精密に選び抜いたら、次はいよいよアプローチの段階です。しかし、ここで絶対にやってはいけないのが、全員に同じ営業トークを繰り返すことです。重要なのは、相手を「助ける(イネーブルメント)」という姿勢で、その状況とタイプに完璧に合わせた情報を提供することです。
現代のB2Bバイヤーは、売り込まれることを極端に嫌います。彼らは自らの手で情報を集め、比較検討するプロセスを主導したいのです。ガートナーの調査では、B2B顧客の77%が購買体験を「極めて複雑または困難」と感じています(出典: Gartner, “Buyer Enablement”)。私たちの役割は、この複雑な旅の「案内人」となり、彼らがゴールにたどり着くのを手助けすることにあります。
この「買い手を助ける」という思想を「バイヤーイネーブルメント」と呼びます。計算ツールや診断チャート、比較ベンチマークなどを提供し、彼らが社内合意を形成しやすくしたり、意思決定の確信を深めたりする手助けをするのです。
すべての人に同じ情報が響くわけではありません。マッキンゼーの調査によると、B2Bの意思決定者は、その購買スタイルによって大きく3つのタイプに分類できます(出典: McKinsey & Company, “Five fundamental truths: How B2B winners keep growing”)。
さらに、買い手は「対面」「リモート」「セルフサービス(Webサイトなど)」の3つの情報収集チャネルを、ほぼ3分の1ずつ均等に好むというデータもあります(出典: McKinsey & Company, “Five fundamental truths: How B2B winners keep growing”)。相手のタイプを見極め、彼らが最も心地よいと感じるチャネルで、最も響く情報を提供すること。この徹底したパーソナライズこそが、商談の扉を開くのです。
さて、私たちはここまで、5%の「今すぐ客」にいかにアプローチするかに焦点を当ててきました。しかし、残りの95%を無視していいわけではありません。彼らは「今は」買わないだけで、3ヶ月後、半年後、1年後には、あなたの最良の顧客になる可能性を秘めた「未来客」なのです。
この未来客との関係を長期的に築き、彼らが買い時を迎えたときに、真っ先にあなたの会社を思い出してもらうための活動が「リードナーチャリング(顧客育成)」です。
ナーチャリングの鍵は、売り込み色を完全に消した、価値ある情報提供(ソートリーダーシップ)にあります。
これらの活動を通じて、あなたの会社を「単なる製品の売り手」から「信頼できる業界の専門家」へと昇華させるのです。質の高いソートリーダーシップは、顧客の信頼を勝ち取るだけでなく、実際に購買に繋がった際に「この会社にならプレミアム価格を支払ってもいい」と思わせるほどの強力な影響力を持っています(出典: Edelman and LinkedIn, “2024 B2B Thought Leadership Impact Report”)。
5%へのアプローチと、95%へのナーチャリング。この両輪を回すことこそが、安定的かつ継続的に商談を生み出し続けるための、最強のマーケティング戦略なのです。
「サイトの訪問者が増えているのに、商談が増えない」
この悩みの根源は、マーケティングの視点が、不特定多数の「量」に向いてしまっていることにあります。本記事で解説したアプローチは、その視点を「個」の質へと転換するものです。
マーケティング活動を、アクセス数という無味乾燥な「点」で捉えるのをやめましょう。FIBスコアで顧客を「面」として立体的に理解し、彼らのタイプに合わせたアプローチで「線」で繋いでいく。そうすることで、一つひとつのリードの背景にある、購買チームのユニークな「物語」が見えてくるはずです。
その物語に寄り添い、彼らの成功を支援するパートナーとなること。その先にこそ、商談数が2倍、3倍と増えていく、持続的なビジネスの成長が待っているのです。
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