ABM
BtoBマーケティング
BtoB広告
GTM
マーケティング
広告
BtoBの追いかけ広告で成果を出す鍵は、単なる追跡ではなく、顧客の検討論点に合わせた情報提供にあります。本記事では、自社サイトの閲覧データと外部インテントデータを掛け合わせ、相手の関心事を特定する方法を解説。さらに、機能訴求ではなく不安払拭や比較検討を助けるクリエイティブ設計、そして商談化を見据えた多層的なKPI評価まで、現場ですぐに使える具体的な広告運用モデルを提案します。

目次
匿名企業の可視化ツールや、Web上での行動データを指すインテントデータが取得できるようになると、マーケティングの現場では真っ先にこんな疑問が挙がります。
結局、このデータを使ってリターゲティング広告などの「追いかけ広告」を打つのは効果があるのか。
結論から言えば、効果はあります。ただし、そこには明確な条件が存在します。
単にサイトを訪れた人を追いかけるだけでは、クリック単価がかさむだけで成果にはつながりません。重要なのは、誰に、何を、どのタイミングでぶつけるかという設計の精度です。ここがズレていれば、どんなに高精度なデータを使っても費用は溶けていくばかりです。
この記事では、BtoBマーケティングにおける「インテントデータを活用した広告配信」について、具体的な設計図を共有します。機能の羅列ではなく、顧客が社内で議論しているであろう「検討論点」に合わせたコミュニケーション設計こそが、成果を分ける鍵となります。

まず前提として、BtoBにおける広告運用の難しさを整理しておきましょう。
一般消費財の広告であれば、衝動買いや短期的な欲求に訴えかけることができます。しかし、BtoB商材、特に検討期間が数ヶ月から一年に及ぶようなサービスの場合、広告をクリックしたその瞬間にコンバージョン(CV)が発生することは稀です。
なぜなら、意思決定者が複数人いるからです。担当者が広告を見て「良さそうだ」と思っても、そこから上司への報告、他部署との調整、予算の確認といった長いプロセスが待っています。このプロセスを無視して、クリック直後のCV数だけで広告の良し悪しを判断してしまうと、本当は効果が出ているのに「数字が悪い」として早期に停止してしまうミスが起こります。
では、BtoBにおける追いかけ広告(リターゲティングやアカウントベースド広告)の正体とは何でしょうか。それは単なる「再訪問の促進」ではありません。本質的には以下の3つの役割を担っています。
一つ目は、取りこぼしの防止です。 検討期間が長いということは、その間に競合他社に目移りしたり、プロジェクト自体が頓挫したりするリスクがあるということです。定期的に接点を持つことで、検討のテーブルに残り続ける役割があります。
二つ目は、理解の促進と不安の払拭です。 一度のサイト訪問ですべての情報を理解してくれる顧客はいません。特に導入に対する不安要素は、サイトを見ただけでは解消されないことが多いものです。広告を通じて、導入のハードルを下げる情報を断続的に届ける必要があります。
三つ目は、営業連携の補助です。 これが意外と見落とされがちですが、広告には「商談前の空気づくり」という効果があります。インサイドセールスが電話をかける前に、相手が自社のバナー広告や記事広告を目にしていれば、全く知らない会社からの電話よりも心理的な壁は低くなります。
このように、BtoBの広告は「刈り取り」だけでなく「耕作」の側面が強いのです。この前提に立ったとき、どのような設計が必要になるのかを見ていきましょう。

ここからは具体的な設計の話に入ります。まずは「誰に出すか」です。
多くの企業でやりがちな失敗があります。それは、サイトのトップページを訪れた人全員に対して、一律で「資料請求はこちら」「無料トライアルはこちら」という広告を出してしまうことです。
これでは、まだ情報収集を始めたばかりの人に売り込みをかけることになり、逆効果になりかねません。あるいは、すでに契約済みの既存顧客にまで「無料トライアル」の広告が出てしまい、ブランドイメージを損なうこともあります。
成果を出すためには、自社サイトの閲覧状況と、外部サイトでの行動データ(インテントデータ)を掛け合わせて、相手の「検討段階」を推測する必要があります。
まずは基本となる自社サイト内の行動分析です。どのページを見ているかによって、ユーザーの頭の中にある関心事はある程度推測できます。
料金ページやプラン一覧を見ているユーザーは、具体的に予算と照らし合わせている可能性が高く、稟議に向けた費用感の確認フェーズにいると考えられます。
導入事例ページを見ている場合は、自社に近い事例を探し、導入後のイメージを具体化しようとしています。これは社内説明のための材料集めをしている段階かもしれません。
比較ページや「他社との違い」といったコンテンツを見ているなら、選定の最終盤で競合との優劣をジャッジしようとしているサインです。
一方で、機能の詳細ページを熟読している場合は、現場レベルでの要件整理フェーズであることが多いでしょう。また、採用情報や会社概要を見ている場合は、商材への興味というよりは、企業としての信頼性を確認している段階かもしれません。
このように、閲覧ページごとにユーザーの温度感や求めている情報は異なります。これを大まかに分類することから始めます。
自社サイトの閲覧データだけでは、まだ不十分です。「たまたま料金ページを開いただけ」の人も混ざっているからです。そこで、外部のWeb行動データ、つまり「サイト外インテント」を掛け合わせます。
例えば、「料金ページを閲覧した企業」かつ「外部サイトで『費用』『価格』『ROI』といったキーワードを含むコンテンツを頻繁に閲覧している企業」であれば、コストに関する関心が非常に高いと判断できます。
同様に、「比較ページを閲覧した企業」かつ「外部サイトで『競合他社名』や『比較』といったキーワードを調べている企業」は、まさに今、コンペの真っ最中である可能性が高いでしょう。
「導入事例ページを閲覧した企業」かつ「『成功事例』『業界名+課題』などの文脈で検索している企業」は、社内説得のためのロジックを固めようとしている段階と言えます。
このように、内側の行動と外側の関心を掛け合わせることで、相手が今まさに何に悩んでいるのか、その解像度を一気に高めることができます。
ここまで聞くと、「ものすごく細かくセグメントを分けないといけないのではないか」と不安になるかもしれません。しかし、最初から細分化しすぎると運用が回らなくなります。まずは以下の3つのセグメントから始めるのが現実的であり、かつ十分効果的です。
一つ目は「比較・選定」セグメントです。競合との違いや、選定の決め手を探している層です。 二つ目は「費用・稟議」セグメントです。予算感や費用対効果を気にしている層です。 三つ目は「導入不安」セグメントです。運用に乗るか、セキュリティは大丈夫か、といったリスクを懸念している層です。
この3つに分類するだけでも、広告の出し分けは劇的に改善します。

配信対象を決めるのと同時に、あるいはそれ以上に重要なのが「除外」の設定です。これを徹底するだけで、無駄な広告費を削減し、運用が楽になります。
まずは既存顧客です。すでに契約している企業に新規獲得のための広告を出すのは、費用の無駄であるだけでなく、「顧客のことを把握していない会社だ」というネガティブな印象を与えかねません。
次に、現在商談中の企業です。営業担当が個別に提案をしている最中に、Web上で一般的な広告を出しても効果は薄いです。商談中の企業には、通常の広告を止めるか、あるいは商談を後押しするような特別なメッセージ(例えば、第三者機関の評価レポートなど)に切り替えるのが理想です。
そして、採用情報やIR情報のみを閲覧している企業も、商材検討の温度感は低いケースが多いため、除外あるいは配信優先度を下げてよいでしょう。
なお、このように企業単位で「閲覧ページ×サイト外インテント」の条件を切り、広告配信システムに接続するには、IPアドレスから企業を特定する技術や、複数のデータを統合する仕組みが必要になります。ウルテクのようなアカウントインテリジェンス系の設計思想を持つツールを導入していると、このあたりの連携がスムーズになり、運用スピードが上がります。

配信対象が決まったら、次は「何を出すか」、つまりクリエイティブの設計です。ここで多くのBtoB企業が陥る罠があります。それは、製品の「機能」をアピールしてしまうことです。
「多機能なダッシュボード」「AIによる自動分析」「特許取得の技術」といった機能訴求は、作り手からすれば魅力的に見えます。しかし、受け手である検討段階のユーザーからすると、それは「どの会社も言っていること」に過ぎません。
また、機能の話は、相手が抱えている具体的な課題とズレやすいという問題もあります。ユーザーが知りたいのは「すごい機能があるか」ではなく、「私の抱えている疑問や不安に答えてくれるか」です。
そこで重要になるのが、機能ではなく「検討論点」をぶつけるという考え方です。
先ほどセグメント設計で挙げた3つの分類は、そのまま広告で訴求すべきメッセージの型になります。
一つ目は「比較論点」です。 他社と迷っているユーザーに対しては、選定の軸を提供します。「〇〇システム比較表」や「失敗しない選定チェックリスト」といったクリエイティブが有効です。自社が優位な軸で比較を整理し、ユーザーの頭の中を整理してあげるイメージです。
二つ目は「費用論点」です。 予算を気にしているユーザーに対しては、稟議を通すための材料を提供します。「費用対効果シミュレーション」や「価格の考え方ガイド」、「ROI算出のテンプレート」などが刺さります。単に「安い」と言うのではなく、投資対効果のロジックを示すことが重要です。
三つ目は「導入不安」です。 失敗を恐れているユーザーに対しては、安心材料を提供します。「導入ロードマップ」「運用体制の作り方」「よくある失敗と回避策」といったコンテンツです。機能の凄さよりも、導入後のサポートや成功までの道筋を見せることで、不安を払拭します。
最初から大量のバナーやホワイトペーパーを用意する必要はありません。まずは各論点に対して、一つずつ強力なコンテンツを用意しましょう。
比較フェーズ向けには、「選定チェックリスト」か「比較観点まとめ」。 費用フェーズ向けには、「価格の決まり方解説」か「ROI計算シート」。 不安フェーズ向けには、「導入ロードマップ」か「失敗回避ガイド」。
これらを広告のクリエイティブ(バナーやテキスト)に落とし込み、それぞれのセグメントに対して配信します。
広告をクリックした先のランディングページ(LP)も、論点別に変えることで効率が上がります。
比較訴求の広告をクリックしたのに、遷移先がトップページだったり、いきなり「お問い合わせフォーム」だけのページだったりすると、ユーザーは期待外れに感じて離脱してしまいます。
比較セグメントには比較資料がダウンロードできるLPを。 費用セグメントには費用感やROIが分かる資料のLPを。 不安セグメントには導入ステップや体制について詳しく書かれた資料のLPを。
このように、広告の入り口から出口までを一貫した「論点」で通すことが重要です。一つのLPにあれもこれもと情報を詰め込んだ「全部盛りLP」は、結局誰にも刺さらない弱いページになりがちですので注意が必要です。

最後に、広告の効果をどう評価するか、KPIの設計についてです。
ここでもBtoB特有の難しさがあります。前述の通り、BtoBは検討期間が長いため、広告をクリックしてすぐにコンバージョン(資料請求や問い合わせ)に至るとは限りません。
多くの企業で起きているのが、「広告を出したけれど、直接のCVがつかないから止める」という判断です。しかし、これは非常にもったいないことです。広告を見て認知し、記憶に留め、後日指名検索で戻ってきたユーザーや、広告を見たことで信頼度が増し、営業からの電話に出たユーザーの価値を無視していることになるからです。
CVだけを見て一喜一憂するのではなく、時間軸を分けた3つの指標、いわば「三段ロケット」で評価することをお勧めします。
一段目は「短期(その週〜翌週)」の指標です。 ここでは、広告経由での再訪問や、サイト内での回遊状況、重要なページ(料金や事例など)への到達を見ます。CVしなくても、検討の深度が深まっているかどうかが分かれば、広告の役割は果たせていると判断できます。
二段目は「中期(数週〜)」の指標です。 ここでは、指名検索の増加や、ブックマークなどからの直接流入の増加、あるいはダウンロードされた資料の質(より検討度の高い資料が見られているか)を見ます。広告によってブランド認知が定着し、検討の選択肢に残っているかを確認します。
三段目は「長期(翌月〜)」の指標です。 ここで初めて、商談化や案件化といったビジネス成果を見ます。これはWebのアクセス解析だけでなく、CRM(顧客管理システム)やSFA(営業支援システム)のデータと紐づけて追う必要があります。
「広告を見た企業が、本当に商談につながったのか」を厳密に証明しようとすると、高度なアトリビュージョン分析が必要になり、多くのマーケターがここで挫折します。
しかし、実務上はそこまで厳密にする必要はありません。もっとシンプルに捉えましょう。
「広告配信を開始してから、ターゲット企業からの再訪問が増えたか」 「重要ページの閲覧数に変化はあったか」 「結果として、ターゲット企業群からの商談発生率は上がったか」
このように、個別の因果関係を証明しようとするのではなく、施策全体としての「流れ」が増えたかどうかを週次で定点観測するだけで十分な判断材料になります。
あるSaaS企業のマーケティング担当者の話です。彼らは当初、リターゲティング広告のCPA(獲得単価)が高騰したことを理由に、広告配信を停止しました。すると翌月、インサイドセールスのアポイント獲得率が目に見えて低下しました。広告による「事前の認知」や「信頼感の醸成」がなくなってしまったため、電話がつながりにくくなり、つながっても話を聞いてもらえなくなったのです。
慌てて広告を再開すると、数値は徐々に戻りました。この経験から、彼らは広告のKPIを「直接のCV数」だけでなく、「ターゲット企業のサイト滞在時間」や「重要ページ閲覧数」といった中間指標も重視するようになり、営業部門との連携もスムーズになったといいます。

最後に、よくある失敗パターンとその修正の方向性をまとめておきます。
セグメントを最初から細かく切りすぎて運用が回らない場合は、まずは潔く「比較・費用・不安」の3分類に統合しましょう。
クリエイティブが製品説明や機能自慢になってしまっている場合は、ユーザーの疑問に答える「資料」や「チェックリスト」のオファーに切り替えましょう。
そして、KPIがラストクリックのCVのみになっている場合は、再訪問や指名検索、そして最終的な商談への影響度といった、多層的な指標を取り入れましょう。
「インテントデータを使った追いかけ広告は効くのか?」という問いへの答えは、リターゲティングをするかしないかではなく、**「検討論点で出し分けたか」**で決まります。
単にサイトに来た人を追い回すのではなく、その人が「今、何に悩んでいるのか」をデータから読み取り、それに応える情報を提供する。これは広告というよりも、デジタル上で行う「接客」に近い感覚かもしれません。
設計はシンプルで構いません。
この3つのステップを丁寧に設計することで、広告は単なる集客装置から、商談を創出するための強力な武器へと変わります。まずは手元のデータを整理し、自社の顧客がどのような「論点」を持っているかを想像するところから始めてみてはいかがでしょうか。
Q. インテントデータの活用や広告ツールの導入は高額になりませんか? A. 確かにツールの導入費用はかかります。しかし、確度の低い相手に広告を出し続ける「無駄打ち」を減らす効果が大きいため、トータルで見れば獲得単価(CPA)や商談単価が下がり、費用対効果(ROI)は改善する傾向にあります。
Q. セグメントごとにクリエイティブや資料を作り分けるリソースがありません。 A. すべてを新しく作る必要はありません。既存の営業資料やホワイトペーパーから、該当するパートを切り出して広告用に加工するだけでも十分効果的です。まずは最も重要な1つのセグメントからスモールスタートすることをお勧めします。
Q. 広告配信を始めてから、どのくらいの期間で効果が出ますか? A. 「サイト再訪」や「重要ページの閲覧増加」といった短期的な指標(中間CV)については、早ければ配信開始から数週間で変化が見え始めます。ただし、最終的な「商談化」や「受注」への影響を評価するには、その商材の平均的な検討リードタイム(数ヶ月〜半年など)を考慮した長期的な計測が必要です。
ウルテクについて、もっと詳しく知りたい方へ